2024-05-12

対中いずみ【解題】「後記」第308号

【解題】「後記」第308号

対中いずみ


308号では「花月照徑」に竹中宏が魚目俳句について論じている。そのなかに「常套を打破するは、作家に不可欠の衛生術である」とある。もう少し引くならば、「かつて素朴な「客観」写生の指標がどれほどの至福を作品にもたらしたかは、ホトトギスの空気を吸ってきたひとが、いちばんよく知っていよう」「作品は変化しつづけねばならぬとすれば、それみずからの必然もしくは偶然が、その進路をひらくであろう。わたくしは、ただ、作者がいま噛みしめているかもしれなつらさに、今日的ないさおしをみようとするものである。なせなら、それは、ホトトギスの楽園にとどまりえなかった俳句が共通に甘受せねばならぬ運命のしるしなのであるから」と続く。

「青」308号の裕明句6句は以下の通り。このころまだ雑詠欄である。

夕東風につれだちてくる佛師達

春風や夕ほのしろし北魏佛

まつさきに起きだして草芳しき

春の磴よくぞ大雨とはなりぬ

別に子細なき信心の桜貝

桜貝御消息に艸のこと

(太字は『花間一壺』に収められている。「別に子細なき」の句は「櫻貝」の表記である。)

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