2024-06-30

牧野冴 戻れない 10句


 

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牧野 冴 戻れない

最後尾の看板持たされて炎天
円陣で台本さらう雲の峰
下の名で呼び合う職場ところてん
夏痩せてテプラで直す女神の名
吐き方を褒められている熱帯夜
逝去なお続く年表扇風機
聞き飽きた台詞ラムネがぬるく落ちる
ピンセット冷たく眉を抜く西日
茄子の皮するり洋画の女言葉
どこにも戻れない冷蔵庫にシールの跡

3 comments:

明 惟久里 さんのコメント...
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明 惟久里 さんのコメント...

肩の力はほどよく抜けて、だが文章のうまい作家の小説はあっという間に読了する。
冴さんの連作もこれに似ているといつも思う。10句でももっとあってもさらりと一気に読める。
今回は「三十路に入ったバリキャリの1週間」が浮かんだ。
「下の名で呼び合う[心太句]」くらいの居心地だが、イベントのアテンドの仕事なのか「最後尾の看板持たされ[炎天句]」たり、[雲の峰句]や[夏痩せ句]にあるようにかなり働かされる職場らしい。
ひとつのプロジェクトが終わると午前様になる飲み会[熱帯夜句]、絶え間なく入るOBOGの訃報[扇風機句]、そして[ラムネ句]にあるような昭和の価値観が根強く残る職場環境。
週末はもうぐったり。起きたら既に午後、お肌のセルフケアをして[西日句]、ちょっとしたアテを作っていたら、チラ見していた「洋画の女言葉」が耳に障る[茄子句]。
ふと、子供の頃からある「冷蔵庫」が目にとまる。どうしても残る「シールの跡」[冷蔵庫句]。
職場でも家でも、どこにいてもあるようでないような自分の居場所。自分はどこへ向かっているんだろう…時々逡巡する。
わかっていることはひとつだけ。
「どこにも戻れない」のだ。
無情に歳月は進んでゆく。
切なさの余韻だけが広がり、あぁまた月曜日がくるなと、ため息と共に読み終える十の秀句。

明 惟久里 さんのコメント...

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