2024-11-10

コンソメ 藤田哲史 作品50句

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コンソメ  藤田哲史

風船がみるみる遠い融雪期
花降る日腿上げをして陸上部
告げ得ずに終る彼此(あれこれ)水張田
あめんぼう果たして雨と競いあう
緑蔭が吹かれ揉まれる彼方です
忙しげに回転扉冷房裡
濃あじさい蠶(かいこ)廃れて只の町
箱庭に瓦斯燈灯る眩しくも
葛櫻落語の何か泣けること
零時過ぎ東区驟雨レジを呼ぶ
なりゆきに髪洗いあう昨日今日
噴水の形ゆらめき吹かれる日
見尽くされ更にうすれること虹は
遠泳を孤独の比喩と思うこと
自らに珈琲落とす西日中
衆目にマネキン裸形駅残暑
蜩に夜勤終わりの牛丼並
あさがおのひしめき咲けばしみじみと
たっぷりと桟橋に降り今は秋
犬山は鯖雲散らしそれっきり
秋の雨身支度映す立鏡
コンソメの琥珀をすくう後の月
えのころに人の慕情を託すこと
冷ややかに朝の如雨露の雨溜り
掌に受けて林檎の香り掌に宿る
日短揚油染む紙包み
停留所雨降り止めば冬の入
雪催本屋に待つと会えること
待つ人の鎧のような着込みよう
受付も予防接種に混む季節
路上チェロ寒さも蚤の市のうち
ふと思いおこすようにも降るしぐれ
手袋の片方外す鍵のため
寒卵影一箇持ち物静か
湯麺(タンメン)に甘い白菜母郷とは
白白と花捲(ホアジュアン)出来る淑気です
解け残る三日目の雪だるまです
見るとなくフィギュアスケート映すこと
透明な時間即ち霜柱
上々の小春日和の日のひかり
七五〇cc(ななはん)を駆る裘関ヶ原
春を待つ看板猫も三代目
試験官側の静かな眺めです
卒業の季節と思う今年また
やきそばをせしめれば足る春祭
初蝶に大道芸の後仕舞
一枚のレタス折り敷くパンの上
莫迦猫の散らかすティシューのどかな日
冗談は湯船に誘う春の宵
四月尽寛ぎに来てバーの端

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