2024-12-08

【俳句を読む】 <特別作品50句・相互鑑賞の試み> 高梨 章 四人を読む


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四人を読んで    高梨 章

 ガ ガンボ 
 ガ
 ガン
 母
 軽くて
 静かで
 少しだけ揺れる

ががんぼには祖母の余命がわかるのか 千倉由穂
   
 眠るやうな 穏やかな
 最期
 でしたよ、

ががんぼの隣を夜が過ぎてゆく クズウジュンイチ

     *

 なにか聞こえた?
 聞こえなかつた
 私には聞こえた
 あなたにも聞こえた
 ほらまた何か

雲ひとつふたつと育てつつ昼寝 田中惣一郎

     *

 ふたたび扉をたたく
 誰もでてこない 

手袋の片方外す鍵のため 藤田哲史

 あるひは
 鍵はあるが
 ドアはない

     *

 わたし何か言つたかしら
 いや、何も言つてゐないかもしれない

朧夜の話し相手がそつとゐる クズウジュンイチ

 わすれられた 人だつた

     *

 彼はまだ
 指を差してゐる、

風船がみるみる遠い融雪期 藤田哲史
 
 規則正しく息をして
 そして 
 空 だけとなる、

      *

 扇風機二台が首を振り、
 ピンポン玉がこんこんこん

寂しさのかぎり首振る扇風機 千倉由穂

 下を見て、
 そして上を見、
 (小声で)

   *

 波が舟にあたる軽い音、
 舟のかすかに軋む音、

やはらかき辞典一冊さつき咲く 田中惣一郎

 舟は下流の入り江で
 軽く揺れ、そして
 明るい

   *

 物を集め
 そして ひとは死ぬ

端居して花布眺めたることも 千倉由穂

 棚にある、
 借りたままの
 本
 草鹿外吉訳

      *

 わたしたちが向かふのは、
 場所ではない、

透明な時間即ち霜柱 藤田哲史

 ただ広くて
 静かで
 ひかりの
 飛沫が あがる

      *

 陽が
 天の
 まんなかにくる

空室へ風を呼び込む鯨かな クズウジュンイチ

 わたしは
 空のクモに
 恋をした鯨を
 知つてゐる



■コンソメ 藤田哲史 作品50句 ≫読む

■踏切  高梨章 作品50句 ≫読む

■卯月  田中惣一郎 作品50句 ≫読む

■生木  クズウジュンイチ 作品50句 ≫読む

■花布 千倉由穂 作品50句 ≫読む

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