〔ビール俳句〕
冷えきって縮む?
2nd Story Ale Works/Bingo!/Pale Ale/アルコール度数5%
岸田祐子
冷えきりてすこし縮みしビールかな 成瀬正俊
ビールは冷えていればいるほど美味しいという考え方がある。お店によっては、ビールだけでなくグラスも冷蔵庫で冷やしたものを提供してくれることがあるので、少なくとも日本には、ビールは冷たければ冷たいほど良いという価値観があるように思う。一方で「ヨーロッパではビールは常温で飲むんだよ」と教えてくれた人がいた。きっと、個人の好みの他に気候風土によっても、美味しいと感じる温度に違いがあるのだろう。
この句は「ビールが冷え切っていて少し縮んだ」と言っている。ビールが縮むとはどういうことだろうと考えてみて、一つには泡立ちのことなのかもと思った。一般的にビールは温度が高いと泡が立ちやすく、低いと泡が立ちにくい。ビールの泡にこだわりがある人は少なくないし、チェコの有名なビール「ピルスナーウルケル」には「ミルコ」という泡だけを注ぐという飲み方があるくらい。でも、泡にこだわりがある人だったら「縮みしビール」ではなく「縮みし泡」と言いそうな気もする。
あたりまえだけど、ビールの容量自体は、飲むとか、こぼすとかしないと縮まない。まぁ、酔っていれば目の錯覚ということはあるかもしれないし、オカルト的な理由で縮んだということも全否定はしたくない。だけど、もっとちゃんと縮むものってなんだろう。
つらつら考えていて、ふと、香りのことかも、と思った。香りの表現としては、「冷たいと縮む」というよりは、「温まると開く」というほうが一般的だと思うけれど、要するに「冷たすぎると香りを感じにくいよね」ということだ。
そういえば、年末に飲んだペールエールのBingo! は、すっきりしていて軽く、するする飲めた。少しすっきりし過ぎかなと思いつつ、美味しく飲んでいた何口目かに急にふわっと香りが広がった。微かに甘い、オレンジとか蜜柑みたいな柑橘の感じ、それからほんのちょっとビスケットみたいな感じ。それがとっても美味しくて、梅が開いたみたいな嬉しさで、さっきまでの温度はこのビールには少し冷たすぎたのだと思った。もしかしたら、この句のビールもこれから開いてゆくところなのかもしれない。
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