〔ビール俳句〕
未来
★奈良醸造/AS IS/Ordinary Bitter/アルコール度数3.5%
岸田祐子
ビール呷るザハ案でない方の未来 大塚凱
2019年に竣工した新国立競技場の建て替え案が出たのは、2012年だった。その後、改修ではなく、建て替えになることになって、イギリスのザハ・ハディットのデザインが最優秀賞になった。当時、私はこの建て替え計画にたいした関心を寄せていなかったけれど、旧国立競技場の横にある都営霞が丘アパートがどうなるかを心配していた。また、一つ、可愛い団地が消えてゆくのは寂しいが、あの団地があのままの状態であの場所に存続するのは明らかに無理そう。ザハ案の近未来感とは全く親和性がない。しかし、そのザハ案までもが急に白紙となる。
「呷る」とは、勢いよく飲むということ。喉が乾いていていれば、一気に飲むこともある。けれど、「でない方の未来」という言葉に、将来への不安が見えて、味や香りを楽しむために飲むのではない、酔うためのだけのビールだということがわかる。だとすれば、ビールを呷っている人は、霞が丘アパートの住人たちではないだろうか。ザハ案に決まった時も不安や心配があった。でも、ザハ案では、今まで通り競技場の隣りに霞が丘アパートが存続できる可能性がゼロではなかった。それが、急に白紙になるなんて……。とは、私の脳内に立ち上がるストーリー。
そのような落ち着かない日々だとしたら、たまにはビールを持ち寄って住人同士の飲み会を開き慰め合う。酔うためのビールだから銘柄に拘る必要もないが、私なら奈良醸造のAS ISを持参する。Ordinary Bitter とはイギリスのパブで日常的に親しまれているようなエールビールのこと。穏やかなモルトの甘味とホップの香り、なによりアルコール度数が低くてごくごく飲める。ただ、軽いからといって味が薄いわけではない。しみじみとしみじみと美味しい。1杯目はぐーっと呷って飲むとして、2杯目からは、味わって、素敵な未来を想像しよう。
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