2025-08-17

【中嶋憲武×西原天気の音楽千夜一夜】浜村美智子「バナナ・ボート」

 【中嶋憲武×西原天気の音楽千夜一夜】
浜村美智子「バナナ・ボート」


憲武●バナナは好きなので、よく食べます。冷蔵庫でよく冷やしたバナナは、この節まことに美味です。というわけで浜村美智子「バナナ・ボート」です。

 

憲武●もともとこの「バナナ・ボート」という曲はジャマイカのメントと呼ばれていた古い民謡であり、収穫された大量のバナナを船へ積み込む時の労働歌でもあったわけですね。有名なのはハリー・ベラフォンテの1956年のバージョンでしょう。

天気●ハリー・ベラフォンテというと、この「バナナ・ボート」1曲で名を残している感がありますが、米国では、ここからカルプソ・ブームが始まったらしい。それからだいぶ経ってですが、私も1枚、ハリー・ベラフォンテのアルバムは買いました。この曲とはだいぶ趣の違う、軽快なアップテンポが多くて、短期間ですが、愛聴した記憶があります。

憲武●ハリー・ベラフォンテの大ヒットがあったからこそ浜村美智子のバージョン(1957)が生まれたのでしょう。当時の状況は未生以前ですので知らないんですが、テレビで見て知っていたんでしょうね。

天気●テレビでしょうね。浜村美智子というエキゾチックな歌手のこの曲は「昔のヒット曲」的な扱いで、よく観たような気がします。

憲武●もともとの歌詞は、「労働キツい、朝になったら家へ帰りたい、労働キツい」とひたすら労働の過酷さを嘆く歌詞であったのが、浜村美智子バージョンでは「朝まで待っててね。私の好きなマドロスさん、ラムでも飲んで待っててね」と、船乗りを恋する娘の歌詞になってて、「気が気じゃないけれど」とまるで労働はそっちのけのような感じになってて、面白いですね。

天気●労働歌は、歌謡曲にはほとんどなかった。丸山明宏(現・美輪明宏)の「ヨイトマケの唄」くらいじゃないでしょうか。ラヴソングになっちゃうのは、いたしかたのない日本的事情。ちなみに、カヴァーは多くて、キンクスもライブで演ってます。余興的にコール・アンド・レスポンスで盛り上げてます

憲武●カヴァーはほんとに多いですね。この映像は山本嘉次郎監督の『ジャズ娘に栄光あれ』(1958)というミュージカル映画の一場面であるようです。観てません。

天気●あらすじを見ると、なんだかピンチの連続で、おもしろそうですよ。

憲武●浜村美智子のレコードデビューが1957年ですから翌年に製作されたんですね。その人気のほどがうかがえます。

天気●反応が早いですよね。例えば、森山加代子のデビュー曲「月影のナポリ」(1960)も、調べてみると、オリジナルのミーナ「Tintarella di luna」の翌年です。弘田三枝子のデビュー曲「子供ぢゃないの」(1961)は、オリジナルのヘレン・シャピロ「Don't Treat Me Like a Child」と同年。欧米のヒット曲をすぐに日本で女性歌手がカヴァーするという流れがあったのでしょうね。

憲武●そうですね。雪村いづみや松島トモ子なども、そうした流れの中にあった人たちですね。浜村美智子は健在で90近いですが、最近でも「バナナ・ボート」を歌ってます。その動画がYouTubeにアップされてます。

天気●それはすごい。

憲武●ぼくの浜村美智子は「忍者部隊月光」のセクシーな敵の首領なんですが。 

(最終回まで、あと599夜)

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