樋口由紀子・一句逍遙
わたし達の世代 青木空知
(「トイ」vol.17より転載)
永遠に母と並んでジャムを煮る 樋口由紀子
ジャムを煮るには時間がかかる。その間、鍋から目が離せない。甘い匂いが家中に広がる。母と過ごすそれは、甘過ぎるような、時の経つのが遅く感じられるような、苦痛とまでは言わないが、少し息の詰まる時間だ。
樋口さんは「わたし達の世代って○○よね」と何回かわたしに言った。昔々の恋のこととか、今の暮らしのこととか。『金曜日の川柳』のこの句の自解を読んで「そうそう、わたし達の世代ってね」と深く頷いた。
樋口さんとは同学年。早生まれの樋口さんより、わたしの方が少しお姉さんだ。わたし達の世代は母親との付き合い方が下手かもしれない。あからさまに母親と距離を置くでもなく、仲良く買い物やランチを一緒に楽しむでもない。昭和の常識や規律が身に付いていて、母親に面と向かって逆らうことは苦手。できれば言い争いを避けたいのは、母親の愛をよく理解しているから。
この句は、母親がもう亡くなっているような印象だ。それは「永遠に」だから。あの、甘いけれど息が詰まるような時間が母親の死後も永遠に続く。お互いの顔が見えない「並んで」というのが樋口さんらしい。傷つけずに済む。最晩年の母と密に過ごしたわたしとは少し違うけれど。
たましいが順に入ってゆく西日
樋口さんが編集発行人をしていた「晴」終刊号に掲載された句。病気が分かって終刊を決めた号だ。季語でもある「西日」が効いている。今日が終わるその時の太陽に、たましいが順に入って沈んでゆく。一人ずつの命も終わってゆく。
樋口さん、最後は丸の内線の新宿駅でしたね。
また来るって言っていたのに。
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