【週俳8月9月の俳句を読む】
作者の立ち止まる所
菅谷糸
作者は、世界のどこで立ち止まったのだろう、と考えながら読ませていただきました。
バナナ食ふ皮ひややかに手の甲に 岩田奎
そんなところに、と思う
バナナを食べる手の甲に触れた皮の冷たさ。そこに心が止まるのか、と驚きました。
確かにバナナの皮は手の甲に触れます。手のひらは自分から何かに触れることが多いのに対し、手の甲には何かの方から触れてくるような感じがあります。
まだ自分の中で詩として分類されていなかった感覚に出会ったような気がして、はっとしました。
茉莉花やコインで回る洗濯機 上田信治
接続できなさそうなものへの接続
茉莉花の香りに満たされて一句を読み進めると、急に洗濯機の前で立ち尽くすことになりました。
茉莉花の香りは私の中で続いていますが、コインを入れて回り始める目の前の洗濯機と茉莉花を接続できずにいます。
けれども、そもそも接続させよう、意味付けしようとすることの方がおかしいのかもしれないと、一旦、目の前に戻ります。
茉莉花の香りの中で、お金そのものが動力ではないのに、硬貨を入れると大きな洗濯槽がぐるぐる回り始める不思議を見つめています。
そして気付けば、茉莉花の香りは何によって始まるのだろう、と今度は花の方を考え始めてしまいます。
その出口の見えそうにない不思議を前にして、私は茉莉花の香りの中で洗濯が終わるのを待つことにします。
秋風や張飛の髭の酒乾き 曾根毅
物語から身体へ
巨大な物語の登場人物である張飛が、この一句の中では物語ではなく、秋風に晒されている身体として見えてきました。
髭に残った酒が秋風に乾いてゆく。
私には張飛のような立派な髭はありませんが、秋風に髭の酒が乾くのを感じてみたくなりました。
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