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2019-11-17

【週俳9月の俳句を読む】風 原知子

【週俳9月の俳句を読む】


原知子


迸る滝にヒト科をかがやかす  五十嵐秀彦

滝の激しさに共鳴してかがやいているのか。「肉体」や「こころ」ではなくて、「ヒト科」がかがやく。分類項目である「ヒト科」という言葉からは、直立二足歩行とか、道具や言葉を使うといった、他の動物にない特徴や能力のことを思い浮かべる。同時に、野生を失った動物の繊細さのようなものも。かがやいて、さらに進化するのか。


アルゼンチン・タンゴ窓辺に置く桔梗  五十嵐秀彦

「桔梗」が意外で、でもよく合っている。

控えめで和の印象の桔梗。花びらのはっきりとした形や濃い紫色は、長い脚を大胆に見せて踊るアルゼンチン・タンゴと実は似ていたのか。

物静かだが内面はたいへん情熱的なお嬢さんが窓辺にいるようだ。



窓といふ窓開いてゐる昼寝覚
  若林哲哉

小さいころ、昼寝から覚めたら家はシンとしていて誰もいない。母が買い物から戻るまでずっと泣いていたことを思い出した。

寝起きのまだはっきりしない頭で、「窓といふ窓開いてゐる」のを見たら、知らないうちに世界が変わってしまったような不思議な気持ちになるかもしれない。昼寝覚の、まだ夢と現実のあわいにいるようないっときが、うまく描かれているように思う。


父の髪母より長しねぢれ花  若林哲哉

お父さんがかなり長髪なのか、お母さんがベリーショートなのか。標準的な「父母」から、すこしはみ出ているご夫婦なのかもしれない。「ねぢれ花」のすこしずつズレながら上へのぼっていくような姿も、わかりやすい「花」の形とちょっと違っている。

でも、どちらもそれが自分たちには自然なスタイルなのだろう。みんなで秋の野の風に吹かれているような。



やさしくて指をしたたるレモン汁  クズウジュンイチ

やさしくされたら、うれしいけど、同時にちょっとつらかったり、くやしかったりすることもある。やさしくする時も、どこか申し訳ないような気持ちがしたり。

爽やかだけど酸っぱくて苦みもあるレモン。レモン汁にまみれた指先が、やさしさのやり取りのなかの、やさしいだけではないちがう気分を直感的に感じ取っているようだ。


鵙鳴いて襟が合成皮革かな  クズウジュンイチ

この「合成皮革かな」には、どういう気分が含まれているのだろう。やっぱりちょっと自虐的なのだろうか。

小さいけど、図太く我が道を行く、というイメージのある鵙。「合成皮革」だけど何か?と開き直っているように読みたいと思う。



旧友のこと思ふなり鳥威  鈴木健司

「鳥威」という言葉に、暗さや不安を感じる。「時代」とか「世の中」の暗さや不安。

作者が、「旧友のことを思っている」ことは、「今を憂いている」ことと繋がっているのではないか。重みのある句。


三角を繋ぎて秋の野に至る  鈴木健司

晴明神社の五芒星のような神秘的なこの「三角」。無数の透きとおった三角をたどっていくと秋の野が広がっていた。サラッとした風が吹いている。この三角が実は秋風の正体かもしれない。虫の声も、草花の種もどこか三角を帯びている。いろいろと想像がひろがってしまう。



五十嵐秀彦 蟬の時間 10句 ≫読む
若林哲哉 水を注ぐ 10句 ≫読む
646 201998
クズウジュンイチ 杉 檜 10句 ≫読む
6482019922
鈴木健司 蓑虫の不在 10句 ≫読む

2015-05-10

【週俳4月の俳句を読む】原知子 モヤっとしたもの

【週俳4月の俳句を読む】
モヤっとしたもの

原 知子


単純に楽しく読んでもいいのかもしれない。でもやっぱり100%「楽しい」とか「面白い」とかだけでは読めなかった。どの句も楽しいのにモヤっとする。きっと最初に「戦争」というタイトルを見てしまい、「戦争にいろんな事情九条葱」という句を読んでしまったからだろう。「戦争」という語の強さを思う。

はじめと終りに「戦争」で始まる句が置かれた「戦争」10句、全体で一篇の詩のように読んだ。

冬の乳首、熊を撃つ女、おでんの会社、ふとんを取りにゆく俺、トリオ・ロス・パンチョスの待春、家具の恋、うれしいいそぎんちゃく、鉄分、こうやって欠片を並べるだけでも楽しい。作者はどの句もいとおしんで詠んだのではないかと思う。

なのに、この10句のなかに置かれたことで、乳首もおでんの会社もみんな、戦争とはまったくの無縁ではなくなってしまった。

なんだか勿体ない、と思う一方で、こうやってモヤっとすることこそ大切なのではないかとか思ったり、結局私は「戦争」という語に過剰に反応しているだけではないかと思ったり。おちつかない。

男の子がやってきて叫ぶ。「戦争はぜつたいあかん夏蜜柑

この句を読んだとき、半ズボンを履いた少年が、はっきり大きく口を開け、一音一音が確実に(促音の「つ」も)届くよう「ぜつたいあかん」と言っているのが浮かんだ。

この一句で、モヤっとしていたものがすこし晴れたような気がする。

夏蜜柑の香りでスッとした。




第415号2015年4月5日
北大路翼 花の記憶 12句 ≫読む
 
外山一機 捜龍譚 純情編 10句 ≫読む 
阪西敦子 届いて 10句 ≫読む
第416号 2015年4月12日
西原天気 戦 争 10句 ≫読む

2014-02-09

原知子 お三時 10句

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週刊俳句 第355号 2014-2-9
原知子 お三時
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10句作品テキスト 原知子 お三時

原知子 お三時

異体字が紛れておりぬ春の闇

蠟梅の黄にうつくしき鼻濁音

ささやかな誤植がありて菫色

髪に挿しまだ息をしている椿

紅梅のそこまで迫る事変かな

遠縁を訪ねてきたる桜貝

お三時や二人で汚す春の指

驚けば瞬きいくつクロッカス

クレソンを咥えてすこし非日常

旅行記に雨の匂いの残りけり