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2013-03-31

句集好き 林 正行句集『宙』(昭和63年) 上田信治

句集好き
林 正行句集『宙』(昭和63年)

上田信治

 
 
 



林 正行 はやし・まさゆき
大正11年生まれ。神生彩史に師事。「白堊」同人。句集『大王崎』『『洲』『宙』『大将』『東洋一』『俳句バンザイ』。

林正行という人のことは、大畑等さんのブログで知りました。(「今朝も俳句かあ」)

この人は、波多野爽波の〈波音の大王岬の蚊と生れ〉で知られる、三重県志摩市の大王岬(だいおうざき)灯台の真下で、土産物店兼食事処「東洋一」をやっていました。

2006年に刊行された『俳句バンザイ』が「全句集」となっているので、ご存命ではないかもしれません。

前略は今も雨蛙に似ている  『宙』
秋風の疣容れやまぬ大広間
かんたんに啼く鶯や銭たまる

結婚式が多くて太平洋が白い
人らみなみかんの皮を尻からむく
水門を西瓜の皮がいま通る
烏になる気持ちで灯台にはのぼらぬ
あぶらあげどこまでおぼろ月なのか


こういう俳句は、面白いと思えばぜんぶ面白いし、そうでないと思えばそうでないようなもので、書き抜いていると、ぜんぶ書いてしまいそうになります。

第一句集『大王岬』のあとがきを「大王岬はよいところです」と書き始める林正行さんは、とても懐かしいかんじのする人です。

今年、伊勢志摩方面へ行く機会があって、大王﨑に寄ってみたら、「東洋一」営業中でした。たいへん、うれしかったです。

追記「東洋一」食堂としても、すばらしいらしい。
≫食べログ

(上田信治)

句集『大王崎』より「私・・・」



(2013年撮影 大王岬)

写真はクリックすると大きくなります。

2011-06-26

この目でおがむ 毛呂篤の本いろいろ

この目でおがむ 毛呂篤の本いろいろ
西原天気


いま私が持っている毛呂篤句集は4冊。

悪尉 昭和50年 端溪社 限定200部のうち第92番
灰毒散 昭和52年 端溪社 限定部100部のうち第93番
白飛脚 昭和54年 季節社 限定222部のうち第81番
俳白 昭和57年 季節社 限定300部のうち第207番


まず、『悪尉』。


函が頑丈。象が踏んでも毀れないのでは?と思うほど頑丈。



見返しは、真っ赤な腰巻きみたいな赤。化粧トビラが重厚。


序文は金子兜太。


栞も重厚な意匠。栞文は、堀葦男ほか。


次は、『灰毒散』。


頑丈な函に、商標を模した意匠で書名が入る。

曰く、

<効能>俳熱冷し・句癰・其の他諸毒降し
<用法>毎觸後さゆにて服用・注類似品

にしても、この句集名、灰毒散は、インパクト、あるなあ。


本体は表紙の四隅と背表紙に皮革を使い、重厚。

どの本にも言えることだが、函も本体もがっちり硬く頑丈な造り、にもかかわらず、本体の出し入れがスムーズ。びっちびっちでなかなか出てこなかったり、逆にゆるゆるだったり、と、ここは難しい造作なのだが、毛呂篤の本は、名工が誂えた抽斗のように、函と本体の関係が良い。職人さんがていねいに造本しているのかも。


本文は、1ページ一句。毛呂篤の句集は、基本、こう。

太い明朝体で、紙のどまんなかに、ずどんと一句、収まる。

なにかで、毛呂篤は、句を捨てない、と読んだ(本人の弁)。多作多捨の逆。毛呂篤という作者と一句一句が濃厚な関係。句への(愛息・愛娘のような)溺愛。1ページに二句以上を収めるなんて、とうていできないのだろう。


奥付の意匠。これには、シビれる。


『白飛脚』は、クロス張りの帙(ちつ)と本体。栞2部を挟み込み、ここで紹介する他3冊とは、趣が異なる。

和モノのカラーリングが、渋い。


一句一句が、ここまでていねいに晴れ着を着させてもらっている。どの句も幸せにちがいない。


『俳白』は、本体、革装。赤と黒のトーンが、たまらない。

書籍への物質的な愛情(フェティシズム)で所有するなら、この一冊、かもしれない。美しいとしか言いようのない本。


蔵書票(エクスリブリス)を気取った銅版画一葉を挟み込む。

んんん、ぜいたく。かつ、おしゃれ。


トビラ。書名2文字のライトグリーンが、映えまくっております。


本文組版は、さらに重厚に。

紙質をお伝えできないのが残念でなりません。触れるたび、めくるたび、指の腹が、うっとりとなります。



というわけで、毛呂篤の本4冊を紹介してまいりました。微妙な色合いや質感は、ここに並べた写真では伝わりきらないと思います。

ご興味のある方は、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょう。本って、こんなに美しいものなのかと思われるにちがいありません。古書で、安くはないでしょうが、法外な値段でもなく入手できるはずです。

2010-04-18

句集好き4 『午後の窓』加倉井秋を

句集好き 4 『午後の窓』加倉井秋を






加倉井秋を かくらい・あきお

明治42年生まれ。東京美術学校建築科卒業。えびの高原ホテルなどを設計。
昭和11年頃から「馬酔木」「若葉」に投句。
昭和16年から「若葉」編集長。
昭和23年、同人誌「諷詠派」を安住敦、神田秀夫、志摩芳次郎、岸風三樓らと発行。昭和34年より「冬草」主宰。
昭和63年没。

『午後の窓』(昭和33年)は『胡桃』(昭和23)に続く第二句集。楠本憲吉の琅玕洞より刊行。縦幅のつまった特徴的な判型で、瀟洒な装丁。

「わたしはこの序文をかくために、『午後の窓』の原稿を四、五度読返した。何度でも面白く読返すことが出来た。(…)読んでゆきながら目にとまる句を書き抜いてゆくと、その句は知らぬ間に百句以上にも上つてしまった」(富安風生「序」より)


瓦斯タンク花の盛りはすぐ過ぎる
ごみ箱に乗りメーデーの列を見る
べニヤ板かついで通る河岸の櫻
豆腐屋の荷に抽斗がありて春
どう置いても栄螺の殻は安定す
常節を採るには海が明るすぎる
物差を見ても薄暑を感じる
思ひ出すには泉が大き過ぎる
海水着着てポス卜があるので曲る
雁渡る何か売る台組みはじめる
ぺンキ屋が書いても秋てふ字は淋し
燈台を思ひ出しをり蒲団干す
元日の敷居に腰掛けてをりぬ
枯野馬車日當りてゆくたのしさよ
春はまだ膝に黄ナ粉をこぼしても
屑鉄を積みても春の海辺たり
炎天や口から釘を出しては打つ
食べ終へても蜜柑箱といふいつまでも
そんな時刻石灯籠に蠅びつしり

句集好き5 『虎刈』寺澤一雄

句集好き 5『虎刈』寺澤一雄





寺澤一雄 てらさわ・かずお

1957年生まれ。「鷹」「岳」「童子」を経て、「恒信風」「晩紅」「雷魚」「天為」所属。

『虎刈』は第一句集。『新撰21』との関連で話題になることの多い牧羊社の処女句集シリーズ全50巻の一冊として、1988年に刊行。5句組70ページのシンプルな造本。

短詩型の、この塗り絵ハイクに堕しやすい形式において、自分流の型を持っているということは、スゴイことだ。これは決して努力なんてナマやさしい世界ではない。みなが着込み、着膨れ、着飾っている句会にいきなり素裸で登場してくる天性の童子というかんじで、型がすなわち一雄になっている畏ろしさだ。(辻桃子「跋」より)

この湾にとびうを満ちてなお寂し
クロールで行きて帰りは平泳
暗いからほんとに眠い花菖蒲
擂鉢に擂粉木ありぬ夏の宿
気持ちよく日焼の腕が二本あり
行水のただのおやぢとなりにけり
鉄道の官舎古びぬ茗荷の子
空港に半日すごす花氷
これは毒茸むかうの山は富士の山
漬物で飯食うてゐる外は雪
雪国は無くならぬほど雪があり
春近しベーコン一枚とつておく
ねんねこや七堂伽藍燃えて無し
なんとなく田螺和へある夕べかな
鳥帰る帰らぬ鳥の顔濡れて
貝寄風や海に届かぬ石投げて

句集好き6『ウルトラ』高山れおな

句集好き 6『ウルトラ』高山れおな






高山れおな たかやま・れおな

1968年生まれ。1993年より「豈」に参加。2008年より「豈weekly」発行。

『ウルトラ』は1998年、沖積舎刊の第一句集。313句収録。
ビニールケース、表紙に二種のカラーペーパー、小口黄インク塗りと、非常に凝った装丁は日下潤一による。

"ウルトラ"はもとより。"超"とか"過激な"を意味する接頭辞・形容詞だが、集名とするにあたって特に念頭にあったのは、フランス王政復古期の極右反動の一派"超王党派(ウルトラ)"。これは大革命以前へ時間を逆戻りさせようと目論見、かえって七月革命を招いた貴族・聖職者たちで、天晴れな現実無視と時代錯誤の精神の持ち主だった。その名を借りて自ら馬のはなむけとした。(「後記」より)

七生の母へ馳走の火事明り
日の春をさすがいづこも野は厠

まぼろしの大河を前の御慶かな
雛壇の上より見れば戦かな
青き踏みゐる目黒区の主なホモ
ふらここや飛んで陽に入る核家族
総金歯の美少女のごとき春夕焼
海底(うなぞこ)の上下左右や五月場所
目の玉が宝石となる大暑かな
駅ごとに妻佇つてゐる旱かな
駅前の蚯蚓鳴くこと市史にあり
菊の香や眉間よりビーム出さうなり
大関がびつしり潜む秋の海
神は旅にわれは鰈をうらがへす
一号機輪廻なかばに蒲団干す
墨東に絵の餅を焼く絵の火かな
陽の裏の光いづこへ浮寝鳥
犀川にまぼろしの犀雪を来よ

2007-10-07

句集好き3 現代俳句全集1 

句集好き 3『現代俳句全集1』立風書房


赤尾兜子集

石原八束集
上村占魚集
加藤郁乎集


立風書房刊。全6巻。編集委員・飯田龍太、大岡信、高柳重信、吉岡実。
戦後俳句としては、はじめてのアンソロジー。アイウエオ順の編集で、1巻には兜子らのほかに、飯田龍太、角川源義を収録。編集・宗田安正。



2007-09-23

句集好き2 『くくたち 上・下』京極杞陽

句集好き 2 『くくたち 上・下』京極杞陽












京極杞陽 きょうごく・きよう

明治41年生れ。豊岡藩主14代当主(子爵)。欧州遊学中の昭和11年、虚子と出会い、以後、生涯にわたる師弟関係をむすぶ。昭和56年没。

『くくたち 上巻』は昭和21年、『くくたち 下巻』は昭和22年刊行の第一句集。序・高浜虚子。

上巻の後記に「一向精選もせぬ句帳の儘たゞ、先生の選にあづかつた句のみを只年月順に並べた。数は一千句を越えてゐると思ふ。それを青柿堂は二冊にするといふことである。」とあるが、じっさいの収録句数は、上巻140p下巻152pに、約700句。




2007-09-09

句集好き 1 『川口重美句集』

句集好き 1 『川口重美句集』



下村志津子氏 所蔵本


昭和38年刊 限定300部

川口重美 かわぐち・しげみ

大正12年山口県生れ。昭和19年より句作。風・寒雷・万緑・しぎの等に投句。
昭和24年、「風」同人に推さる。同年死去。
本書は、25歳で夭折した作者の没後14年目に、遺された句帳を元に刊行された。