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2014-08-17

自由律俳句を読む 56 天坂寝覚〔2〕馬場古戸暢



自由律俳句を読む 56  天坂寝覚2

馬場古戸暢


前回に引き続き、天坂寝覚句を鑑賞する。

傘借りてまだ居る  天坂寝覚

帰るタイミングを逸して、片手に傘を持ったまま玄関で話し続けているのだろう。ちょっとだけ困った句。

まっすぐ帰らない影が子どもに踏まれた  同

ここでのまっすぐ帰らない影の持ち主は、作者とともにいる女ではなかったか。夕暮れとなって影が伸びて行く赤い世界の中、子供たちの遊ぶ声とまっすぐに帰りたくない二人の姿が交差しているのである。

せまい日陰の汗がながれるまま  同

前句と同様、ここでも作者の側には愛しい人がいるように思う。こんな汗であれば、いくらかいても嫌ではあるまい。

はげしい雨の遠くからゆうやけこやけ  同

ストームが去った後の晴間には、なんともいえない爽快感がついてくる。ゆうやけこやけも同様であって、そうした景を見た日には、得した気分となるのである。

月が無い夜のやわらかいおんなのはら  同

この夜は、音も無い夜だったものと思う。互いの声しかきこえない部屋で、おんなのはらが月のように白く在ったのだ。

2014-08-10

自由律俳句を読む 55 天坂寝覚〔1〕馬場古戸暢


自由律俳句を読む 55  天坂寝覚〔1〕

馬場古戸暢


天坂寝覚(てんさかしんかく、1985-)は、随句(自由律俳句)誌『草原』同人、自由律な会「ア・ぽろん」会員。ツイッターやネットプリントで自句を発表するなど、インターネット上において様々な活動を行っている。

たくさん雪降るまちに母おいて来た  天坂寝覚

いま住むこのまちには、雪はそんなに積もらない。雪空を見上げると、おいて来てしまった母のことを想わずにはいられないのだろう。もっともこの母はおいて行かれてしまったのではなく、吾子を送り出したつもりでいるはずである。

うそつきになって会いに行く秋雨  同

誰へうそをついたのか、どんなうそだったのか。とにもかくにも、お前に会えればそれでいいのである。秋雨に降られるうそつきの後ろ姿は、なかなかに格好よかったことだろう。

眠れない口からものがたりこぼれた  同

母の口から昔話がこぼれているのか、女の口からその半生がこぼれているのか、それとも自身の口から空想がこぼれているのか。いずれにせよこれは独り言ではなく、ものがたりを受け止める誰かが必ずいるように思う。

夏の色の舌出して拗ねてる  同

女の舌ととっても、子供の舌ととっても、愛らしい句。夏の色とはしかし真っ赤だったのだろうか、それとも、かき氷のブルーハワイ色だったのだろうか。

猫が出て行った影に入る  同

「猫を追い出してしまった影に入る」ではないところに、淡々とした雰囲気を感じた。真夏の日中に、こうした影はありがたい。