2016「石田波郷新人賞」落選展
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8. 背に 吉川創揮
沈丁や夜雨の耳に籠りたる
三階の窓より落つるしゃぼん玉
立てば海見ゆる教室ヒヤシンス
囀りの方に湖ありぬべし
明るみに靴脱がれある草苺
ホースより出る水熱し麦の秋
雲を背に雲の流るる夏野かな
網戸洗ふ目のすみずみに水を張り
蝉穴の呼吸に濡れておりにけり
蛍火や空より山の夜深し
舌先の力に桃のほどけけり
マンホールを水の流れや夜半の秋
眼奥に冷えを結びて黙祷す
雨垂れの音の尖りや秋時雨
朝寒や水拭きの跡しるき窓
だらしなき布団の干し方でありぬ
ビラ配るサンタの銀の指輪かな
冬蠅の鏡に縋りゐたるなり
時計なき部屋の昼間や毛糸編む
口元のにきび痛めり初笑ひ
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2016「石田波郷新人賞」落選展
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7. パスタの光 若林哲哉
歌かるた蟬丸と目の合ひにけり
浅蜊炒め絡めパスタの光り出づ
弾力は淫らなるかな椿落つ
iPhoneをもてあそぶ指目借時
花菜畑夜は大マゼラン雲ぞ
くつきりとチワワの歯形巴里祭
揚羽蝶コンビニ裏の耶蘇の墓
青嵐ひかうきぐもをさらふ雲
唐揚のうまさうな色蝉の殻
骨片のごとき砂の上瑠璃蜥蜴
碧き眼は宇宙を見たり鬼やんま
そぞろ寒寄木細工に狂ひなし
家を捨て父流星のたてがみに
曼珠沙華赤の電池を買ひに出て
狛犬の犬歯を伝ふ玉の露
ひと缶のココア分けあふ冬銀河
ポインセチア吾映す窓あかあかと
目に鼻に耳にくちびる粉雪かな
手紙書くときは正座や寒の月
小白鳥地球の水の重きこと
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2016「石田波郷新人賞」落選展
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6. 水路 柳元佑太
せせらぎをやや凍りつつ動く水
みづ汲めば明るみの柊の花
初雪をそのちひさな手おほきな目
寒寒と着地せば骨はたらきぬ
寒林のその一本や倒れたる
影伸びてゐたるを雪の木と思ふ
初東風に見上ぐる椎の同じかり
川すぢを離れて濡るる菫かな
沼底に杭ある寒さ春の鳥
突風に風遅るるよなづなの花
春のソプラノリコーダー目を閉ぢて
蝿の足それの躯を欠きてあり
まなうらも眼も夕立を留め得ず
水族館と海を繋ぐ水路 夏の
アイスクリーム古着屋の裏が海
夏了るてふパレツトの水浸し
あをぞらの冷たき秋のケルンかな
爽やかに子りす前足より落ちぬ
匙ならば澄むみづうみを司る
晩秋や大きなる木に抱きつけば
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2016「石田波郷新人賞」落選展
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5. 死してなほ 森優希乃
残雪やポストへひかり入れてやる
心臓のまづ生まれたる春霞
卒業の朝をはかれる水平器
春滝へ着くまで大樹しか触れぬ
死してなほ象舎へ入らんと落花
誕生はずぶ濡るること夏の星
たちまちに影遅れ出す蜥蜴かな
雨に気付いてほうたるを見失ふ
水中花今も化石の生まれゆく
夕立のおはりを知つてゐる遊具
空蝉のいまだに羽化を待つかたち
風となり切れぬ糸瓜のかるさかな
台風来大樹のやうな弦楽器
胃カメラのどこまで至りたる無月
長電話檸檬をもう一度絞る
木枯や麻酔もうすぐ消えるやう
いま鳥の留まつたらうか風邪の部屋
焼藷を剥き終へ指の淋しなる
書初の並べて干されゐる呼吸
夜の雨閉ぢ込め蝋梅の眩し
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2016「石田波郷新人賞」落選展
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4. 光 新藤生糸
冬暁の始まりラヂオブースより
手を繋ぐやうに聖樹に足す灯
湯冷めしてちひさき声とならざりき
目の前にコツプかぢきは沖にゐる
対岸の町にサーカス冬の靄
寒の月接骨院にある足湯
踏切で途切れる橇の行方かな
あをあをと鍋沸き立つてくぢら汁
炊き出しに持ち寄る水や春寒し
畦焼くや巣穴へ入りゆく煙
逆立ちに晒す足裏風光る
流氷の裏に明るき水面あり
北窓を開くや海のある下宿
雛しまふ和紙それぞれに肩の形
かげろふや壁西側に鳥の群
笑ふたび拭ひし涙しやぼん玉
夏兆す植物園に増ゆる池
ほうたるのやうやう水を吸ふ命
風鈴の海の映らぬ日々となり
背泳ぎに眩しき夜の水面かな
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2016「石田波郷新人賞」落選展
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3. 心にも 黒岩徳将
らふそくに屏風の白のとほさかな
虻おちてゆく縁側の履きものに
椀を置き浅利の殻の触れ合へり
目配せの後の鶯笛軽し
早蕨や腹を大きく鳩の飛び
ショー終へて海豹に手のおきどころ
春の川煙草はまはりつつ流れ
春コート落ちたる夜行バスの床
ボトルシップ初夏の手をはなれけり
花栗や子どものくせにかなしさう
踏む音の石から草へ蛍狩
葉にとほき茎の赤らむ額の花
蚊柱の揉みたる夕のひかりかな
河鹿鳴く比叡に黒く薄き雲
風鈴やタオルケットに光透け
地に触れさうに葉の先を蝸牛
心にも呼鈴のあり花茗荷
走り根の苔に尽きたる蜥蜴かな
ラ・フランス背中合はせの絵描きたち
ビル高く高し狗尾草を蹴る
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2016「石田波郷新人賞」落選展
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2. こゑなく 樫本由貴
一日の明易きこと耳鳴りす
この夏の木に窪があり木が匂ふ
連れ立ちて茂りを過ぎぬたましひも
はつ夏を来て風のなき飛行場
あぢさゐのいつもむかうに見えにけり
雲ひとすぢ瞼すゞしく歩む馬
その中のものみな薄し梅雨の部屋
茄子が吸ふ油にけふの夕陽かな
冬瓜を入れて都会の鍋狭し
口笛や秋光荒き川ほとり
秋の野へ汽車を知らざる子供たち
沿線へカンナ咲かせて雨の家
初時雨きのふの酒を吐きにけり
手袋の何を待つともなく毛玉
そここゝに寒椿ある朝の闇
おそ春の花を購ふ暮らしかな
血は流れ水は溜まつて春の癌
乳呑み子のこゑなく遊ぶ日永かな
平成を菜飯の塩の輝きぬ
読み捨てて本はベッドに鳥雲に
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2016「石田波郷新人賞」落選展
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1. 鯨 青木ともじ
三月の壊すタイプの貯金箱
空のその緊張にある木の芽かな
琳派展待つ列長し花粉症
引く波のきらをがうなの死と思ふ
沖に雲捨てられてゐて望潮
はつ夏や生クリームに尾根と谷
振り返るまでを満たして風薫る
三人のうちの浴衣でなき一人
館内図にはいれぬ部屋や黴の宿
焼け跡の蠅がゆつくり立ち上がる
決別の手紙やがては紙魚のもの
森色のウォッカの瓶や夜学生
再会や木犀ばかり見てしまふ
鮟鱇を吊る紐濁りなく光る
しやがみ込みマフラーに池触れにけり
湖に星の映らぬまま凍る
天狼やいつしか村のなくなりて
雪玉といふ一塊の熱を手に
枯野に影人ならぬもの人がたに
友ひとり失くして夢にゐる鯨
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