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2016-12-04

2016「石田波郷新人賞」落選展 8. 背に 吉川創揮

2016「石田波郷新人賞」落選展





8. 背に 吉川創揮

沈丁や夜雨の耳に籠りたる
三階の窓より落つるしゃぼん玉
立てば海見ゆる教室ヒヤシンス
囀りの方に湖ありぬべし
明るみに靴脱がれある草苺
ホースより出る水熱し麦の秋
雲を背に雲の流るる夏野かな
網戸洗ふ目のすみずみに水を張り
蝉穴の呼吸に濡れておりにけり
蛍火や空より山の夜深し
舌先の力に桃のほどけけり
マンホールを水の流れや夜半の秋
眼奥に冷えを結びて黙祷す
雨垂れの音の尖りや秋時雨
朝寒や水拭きの跡しるき窓
だらしなき布団の干し方でありぬ
ビラ配るサンタの銀の指輪かな
冬蠅の鏡に縋りゐたるなり
時計なき部屋の昼間や毛糸編む
口元のにきび痛めり初笑ひ

2016「石田波郷新人賞」落選展 7. パスタの光 若林哲哉

2016「石田波郷新人賞」落選展




7. パスタの光 若林哲哉

歌かるた蟬丸と目の合ひにけり
浅蜊炒め絡めパスタの光り出づ
弾力は淫らなるかな椿落つ
iPhoneをもてあそぶ指目借時
花菜畑夜は大マゼラン雲ぞ
くつきりとチワワの歯形巴里祭
揚羽蝶コンビニ裏の耶蘇の墓
青嵐ひかうきぐもをさらふ雲
唐揚のうまさうな色蝉の殻
骨片のごとき砂の上瑠璃蜥蜴
碧き眼は宇宙を見たり鬼やんま
そぞろ寒寄木細工に狂ひなし
家を捨て父流星のたてがみに
曼珠沙華赤の電池を買ひに出て
狛犬の犬歯を伝ふ玉の露
ひと缶のココア分けあふ冬銀河
ポインセチア吾映す窓あかあかと
目に鼻に耳にくちびる粉雪かな
手紙書くときは正座や寒の月
小白鳥地球の水の重きこと

2016「石田波郷新人賞」落選展 6. 水路 柳元佑太

2016「石田波郷新人賞」落選展




6. 水路 柳元佑太

せせらぎをやや凍りつつ動く水
みづ汲めば明るみの柊の花
初雪をそのちひさな手おほきな目
寒寒と着地せば骨はたらきぬ
寒林のその一本や倒れたる
影伸びてゐたるを雪の木と思ふ
初東風に見上ぐる椎の同じかり
川すぢを離れて濡るる菫かな
沼底に杭ある寒さ春の鳥
突風に風遅るるよなづなの花
春のソプラノリコーダー目を閉ぢて
蝿の足それの躯を欠きてあり
まなうらも眼も夕立を留め得ず
水族館と海を繋ぐ水路 夏の
アイスクリーム古着屋の裏が海
夏了るてふパレツトの水浸し
あをぞらの冷たき秋のケルンかな
爽やかに子りす前足より落ちぬ
匙ならば澄むみづうみを司る
晩秋や大きなる木に抱きつけば

2016「石田波郷新人賞」落選展 5. 死してなほ 森優希乃

2016「石田波郷新人賞」落選展





5. 死してなほ 森優希乃

残雪やポストへひかり入れてやる
心臓のまづ生まれたる春霞
卒業の朝をはかれる水平器
春滝へ着くまで大樹しか触れぬ
死してなほ象舎へ入らんと落花
誕生はずぶ濡るること夏の星
たちまちに影遅れ出す蜥蜴かな
雨に気付いてほうたるを見失ふ
水中花今も化石の生まれゆく
夕立のおはりを知つてゐる遊具
空蝉のいまだに羽化を待つかたち
風となり切れぬ糸瓜のかるさかな
台風来大樹のやうな弦楽器
胃カメラのどこまで至りたる無月
長電話檸檬をもう一度絞る
木枯や麻酔もうすぐ消えるやう
いま鳥の留まつたらうか風邪の部屋
焼藷を剥き終へ指の淋しなる
書初の並べて干されゐる呼吸
夜の雨閉ぢ込め蝋梅の眩し

2016「石田波郷新人賞」落選展  4. 光 新藤生糸

2016「石田波郷新人賞」落選展



4.  新藤生糸

冬暁の始まりラヂオブースより
手を繋ぐやうに聖樹に足す灯
湯冷めしてちひさき声とならざりき
目の前にコツプかぢきは沖にゐる
対岸の町にサーカス冬の靄
寒の月接骨院にある足湯
踏切で途切れる橇の行方かな
あをあをと鍋沸き立つてくぢら汁
炊き出しに持ち寄る水や春寒し
畦焼くや巣穴へ入りゆく煙
逆立ちに晒す足裏風光る
流氷の裏に明るき水面あり
北窓を開くや海のある下宿
雛しまふ和紙それぞれに肩の形
かげろふや壁西側に鳥の群
笑ふたび拭ひし涙しやぼん玉
夏兆す植物園に増ゆる池
ほうたるのやうやう水を吸ふ命
風鈴の海の映らぬ日々となり
背泳ぎに眩しき夜の水面かな

2016「石田波郷新人賞」落選展 3. 心にも 黒岩徳将

2016「石田波郷新人賞」落選展




3. 心にも 黒岩徳将

らふそくに屏風の白のとほさかな
虻おちてゆく縁側の履きものに
椀を置き浅利の殻の触れ合へり
目配せの後の鶯笛軽し
早蕨や腹を大きく鳩の飛び
ショー終へて海豹に手のおきどころ
春の川煙草はまはりつつ流れ
春コート落ちたる夜行バスの床
ボトルシップ初夏の手をはなれけり
花栗や子どものくせにかなしさう
踏む音の石から草へ蛍狩
葉にとほき茎の赤らむ額の花
蚊柱の揉みたる夕のひかりかな
河鹿鳴く比叡に黒く薄き雲
風鈴やタオルケットに光透け
地に触れさうに葉の先を蝸牛
心にも呼鈴のあり花茗荷
走り根の苔に尽きたる蜥蜴かな
ラ・フランス背中合はせの絵描きたち

ビル高く高し狗尾草を蹴る

2016「石田波郷新人賞」落選展 2. こゑなく 樫本由貴

2016「石田波郷新人賞」落選展




2. こゑなく 樫本由貴

一日の明易きこと耳鳴りす
この夏の木に窪があり木が匂ふ
連れ立ちて茂りを過ぎぬたましひも
はつ夏を来て風のなき飛行場
あぢさゐのいつもむかうに見えにけり
雲ひとすぢ瞼すゞしく歩む馬
その中のものみな薄し梅雨の部屋
茄子が吸ふ油にけふの夕陽かな
冬瓜を入れて都会の鍋狭し
口笛や秋光荒き川ほとり
秋の野へ汽車を知らざる子供たち
沿線へカンナ咲かせて雨の家
初時雨きのふの酒を吐きにけり
手袋の何を待つともなく毛玉
そここゝに寒椿ある朝の闇
おそ春の花を購ふ暮らしかな
血は流れ水は溜まつて春の癌
乳呑み子のこゑなく遊ぶ日永かな
平成を菜飯の塩の輝きぬ
読み捨てて本はベッドに鳥雲に

2016「石田波郷新人賞」落選展 1. 鯨 青木ともじ

2016「石田波郷新人賞」落選展




1. 鯨 青木ともじ

三月の壊すタイプの貯金箱
空のその緊張にある木の芽かな
琳派展待つ列長し花粉症
引く波のきらをがうなの死と思ふ
沖に雲捨てられてゐて望潮
はつ夏や生クリームに尾根と谷
振り返るまでを満たして風薫る
三人のうちの浴衣でなき一人
館内図にはいれぬ部屋や黴の宿
焼け跡の蠅がゆつくり立ち上がる
決別の手紙やがては紙魚のもの
森色のウォッカの瓶や夜学生
再会や木犀ばかり見てしまふ
鮟鱇を吊る紐濁りなく光る
しやがみ込みマフラーに池触れにけり
湖に星の映らぬまま凍る
天狼やいつしか村のなくなりて
雪玉といふ一塊の熱を手に
枯野に影人ならぬもの人がたに
友ひとり失くして夢にゐる鯨