2007-09-02

五十嵐秀彦 その意味性が

五十嵐秀彦 その意味性が


色 盲 検 査 表 の 中 な る 秋 山 家  谷口智行

モノを詠んでいながら、その意味性がさっぱりつかめない、という俳句が個人的にはかなり好きだ(そりゃぁ、いつだって個人的なのだが)。

どうやら知らぬうちに「色盲」は差別語となっていたらしいので、字面的にはかえって新鮮に見えた。実は私は色盲(ああ、一発変換できないので面倒)なのである。だから「色盲検査表」というものが少年時代の「ぼくって人と違う」という自覚を思い出させてくれたりすることを、この句に教えられた。でも秋山さんって誰?

新 米 に 隕 石 の 粒 混 じ り あ り   谷口智行

そう言えば、このごろのお米には石粒が入っていないなぁ。

いきなりガリッとくる不意打ちに顔をしかめるなんてことは、なくなってしまった。

農家の人に訊いたら、農道が舗装されたからだ、と言う。

あ、そう。そうなんだ。てっきり隕石だと思っていたのだが……。



中嶋憲武さんと、さいばら天気さんによる「真夏の出来事」は企画としてとても感心した。

一日十句をやっている人は俳人には多いと思うが、こうして毎日の中から互選で一句ずつ選び時系列で並べるというのは初めて読んだ。とても愉快でした。


七 月 や 模 型 の 汽 車 に 灯 が と も り   さいばら天気

ぼくは汽車の中で生まれた、と嘘をついたのは寺山修司だが、「模型の汽車」にはそんな嘘の匂いがする。模型がホンモノに見えることもあれば、ホンモノが模型に見えることもあるだろう。そして虚実の夜へと発車するのである。


動 か ざ り ガ ー ド の 下 の 五 月 闇   中嶋憲武

一読して、新宿の大ガードを思い浮かべた。同じ作者が8日には「新宿」を詠っているので、そうかもしれない。都会の五月闇がガードの下にうずくまっている。うずくまったきり、動こうとしない。その五月闇って奴は(奴なのか?)じっと宙の一点を見ながら小声でブツブツ言ってたりするのか。うっとうしいことである。


あ や ま り に 行 く め ま と ひ に 巻 か れ つ つ  中嶋憲武

誰でもあやまりに行くことはある。私もこれまで何度も謝罪に出かけた。その場であやまるのではなく、謝罪のために出かけるというのは重苦しいものだ。内容が重大であればあるほど、「なに、一瞬のことさ」と自分に言い聞かせる。思えばひどい話である。

「めまとひに巻かれつつ」に、そんな心の矛盾を覗き込んでしまった。


ま だ な に も 叩 い て ゐ な い 蠅 叩   さいばら天気

つまりまぁイノセントな蠅叩ってやつですな。原罪意識にさいなまれている作者?にとって気になってならぬ蠅叩なのである。いい子ぶるんじゃないよ、このアマ!(女なのか蠅叩は?)

と蠅叩を振りかぶって……、お、お誂えの太った蠅がいるじゃないか。お前さんの命もこいつの純真も、おいらの一振りで……。

この企画、なかなか読み応えあり。またやってください。

でも天気さんのおっしゃるとおり「社会派俳句」には見えなかったけど。



津田このみ 空 蝉
http://weekly-haiku.blogspot.com/2007/08/blog-post_2112.html
谷口智行 おんどれ
http://weekly-haiku.blogspot.com/2007/08/blog-post_26.html
中嶋憲武×さいばら天気 「一日十句」より31句×31句
http://weekly-haiku.blogspot.com/2007/08/3131.html
なかはられいこ 二秒後の空と犬
大石雄鬼 裸で寝る
http://weekly-haiku.blogspot.com/2007/08/77.html

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