2010-07-04

【週俳6月の俳句を読む】長嶺千晶

【週俳6月の俳句を読む】
蝶とエロスと乾き ……長嶺千晶

「掌中」四ッ谷龍

掌中に白蝶捕らえたるも憂き

白 蝶は女身の比喩なのかもしれない。〈抱きしむるからだの脆き西日かな〉〈愛言えば死のこと答うジギタリス〉に恋の顛末を思う。中村草田男の独身時代の「と らへたる蝶の足がきのにほひかな」の句には蝶の翅を指でつまんでそれに見入る草田男のまなざしに一種サディスチックなエロスがあった。しかし、この句のよ うに掌中にしたとたん白蝶に「憂さ」を感じてしまうのはすでに終わりの予感なのだろう。この「憂き」とまで述べる詩のような表現が恋のアンニュイを伝えて くる。



「あくる日の」 茅根知子

あくる日の光の中へ夏の蝶

ま るで、恋を終えた蝶が新たな光の中へ飛び立ったかのようである。この溌剌とした息づかいこそ夏という季節の源なのかもしれない。それは「昨日」を棄て、 「明日」という陳腐な青春ドラマを越えて、選びぬかれた「あくる日」なのである。この語感に大人の女性を感じた。〈綿棒を軽く使ひて月涼し〉〈吊るされた ままでバナナに夜が来る〉何げない気づきが常に新鮮である。衰えることのない感性を羨ましく思う。



「象の化石」松野苑子

さらさらと基地のポストに蜥蜴入る

基 地を詠んだ句群の中で、この句はどこか抒情が感じられた。ポストに蜥蜴が入るということ自体珍しい情景だし、それが基地という場所の設定で、ワイルドな砂 の乾きがひろがってくる。きっと「さらさら」のオノマトペが一句に抒情という潤いを与えているのだろう。〈予定貼る画鋲六つの暑さかな〉〈ハンバーガー口 に溢れて日の盛〉この即物性に苑子さんの新しい傾向を見る気がした。



「撃ち抜かれろ、この雨粒に!」  矢野風狂子

蒸す夜の粘つく蛙の声の中に寝る

都 市の郊外。蛙の声の響きの寝苦しい夜の暑さ。現代風景とひとことでかたづけてしまうことのできない何かを内包している作品群である。否定的な表現、不快指 数の高さ、息苦しいほどの若さのにおい。自己の存在の苛立ちや憤りが俳句のかたちに凝縮している。〈月さす牛の匂いすらない牛舎〉〈夜業明け茶ぶっかけて 喰う冷や飯〉この生々しさに裏切ることのない言挙げの凄みがある。



鈴木不意  はじめの 10句 ≫読む
五十嵐義知  はつなつ 10句 
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茅根知子  あくる日の 10句 
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松野苑子  象の化石 10句 
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四ツ谷龍  掌中 10句 
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中本真人  ダービー 10句 ≫読む
矢野風狂子  撃ち抜かれろ、この雨粒に! 10句 ≫読む
灌木  五彩 10句 ≫読む


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