2010-07-04

【週俳6月の俳句を読む】吉田悦花

【週俳6月の俳句を読む】
次々にくちびるに当ててみて ……吉田悦花


草笛となるまで草を替へにけり   中本 真人

「草笛」なるもの、私は、実際に試したことがないせいか、俳句に詠んだことはほとんどない。題に出されて詠まざるを得なくなった場合、実感が伴わないためか、ことごとく失敗している。そんな私であるが、掲句は、一読、「なるほど」と思った。

草笛というのは不思議な楽器だ、と思う。きっかけは散歩の途中、野草や樹木の柔らかな葉をふと手にとり、軽くくわえるように下くちびるに当てて吹いてみた、という気軽なことであっても、吹けばたやすく音が出るというものではないらしい。ときには、思いがけず鋭く鳴ることもあるだろう。でも、音程を取ろうと思ってもなかなかできない。

運の良い人は、すぐに音が出るけれど、たいていは、コツをつかむまで1週間ほどかかるらしい。毎日、数分でも練習を続けて、なんとか音程が取れるようになるという。熱中して長時間練習すると、酸欠状態のようになって頭が痛くなることもあるので注意、なのだとか。練習を続けると、自然と曲らしきものが吹けるようになってくる。さらに数ヶ月、根気よく続けていると、さまざまな曲を自由に吹けるようになる、という。

草笛は、そこに一葉が介在するだけである。楽器を奏でるというより、くちびるに触れた一枚の木の葉を通して歌うといったイメージなのだろう。心の中の思いのまま、いつでもどこでも吹けるようになったら、どんなに素敵なことだろう。

人間に個性があるように、一枚の葉にもさまざまな個性があり、その違いが音に現れる。高音には固く弾力のある葉、低音はやわらかい葉が向いているというように。くちびると葉の相性というものもありそうである。

作者は、まわりにある葉を手当たり次第といった感じで、次々にくちびるに当ててみて、音の出具合を試しているのだろうか。たかが葉っぱ、されど葉っぱ。だからこそ全身全霊で、いつか草笛となるまで。


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