【週俳6月の俳句を読む】
即反故なのか ……曾根毅
俳句の作り方は千差万別だ。一日一句、ノルマを課して書き溜めたという俳句もあれば、締め切りに間に合わせるためになんとか量産した句もある。吟行に参加してとりあえず出来たもの。あるいは、歳時記と格闘しながら題をもとに作った俳句。通勤途中、突然頭の中に降ってきた句。読書していたら、言葉の連想でつい出来てしまった句などもあるかもしれない。
最終的に出来上がった俳句がどうかだ、という作品本位の意見もあるが短絡的だ。芭蕉は「文台引きおろせば即反故なり」と言う。経験を作品化する技術。何を求めて、どのような方法で創作するのか。また、読み手としてのかかわり方は如何に。そんな答えのない俳句を誰もが探し続けている。
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伏見にゐ葵祭をうつちやつて 鈴木不意
ひやしあめをんなあるじの狐がほ
川太郎は帰りかはほり飛びかうて
固有名詞を上手く活かした作品が目立った。それぞれの言葉の持つ風味が効いており、後味がいい。
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はつなつのうみにひかりのながかりし 五十嵐義知
水流のとどまるところ夏蝶来
草取の帽子のかたち見えかくれ
夏つばめ地をかすめたるはやさかな
入口に日傘の色のならびけり
印象を大掴みに表したかと思えば、一瞬の把握を緻密に取り出して見せる。導入口として、例えば一句に前書きのような機能を持たせつつ、楔として句群のリズムを意識した配し方を忘れないなど幅と技のある作風。
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綿棒を軽く使ひて月涼し 茅根知子
泳ぎ来し少年の耳美しく
蚊遣火のしばらく雨を待つてをり
揺れてゐる水に西日の匂ひかな
繊細な感覚、言葉で紡ぎ出す美しい時の流れが印象に残る。
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息深く吸ふ炎天に橋光り 松野苑子
ハンバーガー口に溢れて日の盛
さらさらと基地のポストに蜥蜴入る
事象の捉え方が独創的で引き込まれる。感性の為せる技に瞠目した。
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みなし子にローズマリーが咲きました 四ッ谷龍
来ぬバスを立浪草の凪と待つ
愛言えば死のこと答うジギタリス
物と思いの交感。五七五から溢れ出す圧倒的な抒情。
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金魚藻の波に遅れてなびきけり 中本真人
田植笠今年の汚れのみならず
遠泳の過ぎたるブイを引き揚ぐる
題への踏み込み方、一句に込められた発見と喜びが直接的に伝わってくる。
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夜更けの公営団地に牛蛙の声ばかり 矢野風狂子
ヤモリの居る家に流れる子殺しのニュース
全身の細胞総出で句作したかのような生命力を感じる。それぞれの句のリズムに、思いを形にするための経過が滲み出ているのだろう。
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人日や琴爪しまふ箱の冷 灌木
終りの始まりとでもいうべきか、端正にして不気味な句。
■鈴木不意 はじめの 10句 ≫読む
■五十嵐義知 はつなつ 10句 ≫ 読む
■茅根知子 あくる日の 10句 ≫読む
■松野苑子 象の化石 10句 ≫ 読む
■四ツ谷龍 掌中 10句 ≫読む
■中本真人 ダービー 10句 ≫読む
■矢野風狂子 撃ち抜かれろ、この雨粒に! 10句 ≫読む
■灌木 五彩 10句 ≫読む
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2010-07-04
【週俳6月の俳句を読む】曾根毅
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