2010-09-26

あいおいがきかじんに愛を 西村麒麟

あいおいがきかじんに愛を

西村麒麟


俳句的には随分前から秋なのですが、実際のところはようやくちょこっと秋らしくなった、というところでしょうか。

ところで皆様、今年の夏休みはどうでしたか?海に行きましたか?それとも山?バーベキューなんかもしたりして、いやぁ、良かったですなー。え?僕の夏休みですか?決まってるじゃないですか、『相生垣瓜人全句集』を読んでいました、毎日毎日全力で。

はい、長い前置きですみません、瓜人についてちょこっと書きます。

全句集の年譜によると、相生垣瓜人(あいおいがきかじん)、明治31年(1898)生まれで、馬酔木の花形作家の一人です、後に海坂の選者となり、昭和60年(1986)永眠、と恐ろしく省略してみました。

僕が残念に思ってるのはこれだけ面白い作品を作る作家なのに、どうも通好み、みたいな扱いを受けているような気がするところです、単にさくっと読める本が出回ってないだけなんですが・・・、さぁ僕の文はともかく瓜人さん、面白いので読んで行きましょう。

手花火を栞に雨月物語

いきなり良い句ですね、なぜか線香花火と雨月物語の相性がとても良いですね、ためしに〜物語、と置いてみてください、大体駄目ですよ。

秋風の日本に平家物語 京極杞陽

も好き。

台風が毛虫を家に投込みぬ

面白いですね、この深刻ではない、なんというかイジワルのレベルの出来事なので、瓜人の俳句はとても可愛いく見えます、さぁさぁ、句集を開けば、次々と瓜人さんが天候や虫達にいじめられますよ、そう、深刻ではない程度に、可愛く。

御降りのかそけさよ父と酒飲めば

父と酒飲めば、良いですね、この父と息子の微妙な距離感がたまりませんね、かそけさよ、なんて、つくづく名句。

鴨引くや猫悉く屋上に

にゃーと聞こえてきそう、この猫は漫画のように、にゃー、と鳴きます。

猫に追はれ初蝙蝠の舞ひ出づる

面白い句出ました!この句、愛唱句の一つです、僕が酔っぱらって、どうしょうもない時に呟くのは、この俳句か

ひきだしに海鳥が来てばたばたする 阿部青鞋

のどちらかです。

冬田見るうちにも星のふえて来る

もう一つの冬田の句の方が有名ですが(後で出てきます)こっちも捨てがたい、というよりも、良い句という意味ではこっちの方が良い句のような気も。星のふえて来る、なんて素敵ですね、虫にやられてばっかりじゃないんだぜ(これも段々わかってきます)、とばかりの俳句。

ががんぼが襲ふが如きことをせし

麒麟選『大好き百句』には必ず入れたい俳句、瓜人さんの偉大なところは、ががんぼを瓜人さん(人間)と等身大に見せるところです、けっしてささやかな生き物を下に見ない、きっと優しい方だったのでしょう。

年と共に蚤の句なども殖えてゆく

多分、僕もそうなります。こんな句をぬけぬけ作るような俳人になりたいもんです。それは、もう力が抜け過ぎてるぐらいの。へなへなに。

春来る童子の群れて来る如く

良いですね、とてもメデタイ句です、こんな風に春を感じられる人は幸福です。

蚤の句を詠まざらむとも力めけり

絶対嘘なんですけど、面白いです、またまたぁとか言いたくなる句。

家にいても見ゆる冬田を見に出づる

出ました、もう一つの冬田、もうほんとに内容を見ると無駄な事が書いてあるだけなんですが、あら不思議575の偉大さよ、俳句にするとなんともヘンテコで面白い句に!!これが瓜人の最も知られている句の一つですかね。

家康公逃げ廻りたる冬田打つ 富安風生

が俳句界の二大冬田俳句です。

怖るるに足らざる我を蟹怖る

優しさが滲み出てますね、この句は僕のお気に入りで、色んな人にほらほら面白いとか言って見せる事が多いです。まぁ半分ぐらいの人はくすっと笑ってくれます。半分の人は僕の事を日本で最も暇な人間を見るような目で見ます。

干梅を見るや惨事を見る如く

ががんぼが等身大に見えるぐらいなら、梅干しも惨事に見えてしまいます、もう言ったもん勝ち。

勝つ事は勝てり蚣と闘ひて

蟷螂が怒りに燃えて立ち上がる

二句とも得意の虫俳句、面白いですねぇ、虫が強いのか、瓜人さんが弱いのか、必死に虫と闘う瓜人さんの姿を想像すると、もう、たまりません、実に、実に面白い。

わが餠を見す見す黴に奪はるる

・・・きっとなんとかできはず

許されし如く蜘蛛居り許さぬに

この後、激闘は必至

そこはかとなく昼寝すと人の云ふ

すぴーと寝息を立てそう、ぐが〜とかは絶対に言わない、そこはかとなく、とはすやすや。

過ちて脆なる蝸牛踏みにけり

ぐしゃっ!そう、有名な

かたつむり踏まれしのちは天のごとし 阿部青鞋

と並べてみると、とてもおかしい。

厭はざるのみか好みて藷食うぶ

藷が好きだと素直に言えば良いのに、じれったい、でも、そこが面白い。

焼藷の大きな皮をはづしけり 阪西敦子

これもかなり藷好きな俳句、おいしいですし、藷。

乱行を重ぬる如く嚔する

ささいな乱行だなぁ・・・。

敢えて螫す蟻なり敢えて潰すなり

く、くどい、言わなくて良い事をわざわざ言うのが、瓜人俳句の面白さのひとつ。

春着の娘たうもろこしを手にしたる 波多野爽波

これも言わなくて良い事をわざわざ言って面白くなった俳句

校庭を熊が眺めてゐたりちふ

この熊、凶暴な感じではなく、なんだかきれいな、絵本に出てくるような熊を想像してしまいます、まぁ現実の熊は、熊さんとは似ても似つかないけど・・・。

鮮やかに蠅を二つに打ち割りつ

必殺!

無花果を蟻より奪ひ返しけり

よ、弱い・・・。

青蜜柑敢て売るなり敢て買ふ

ちょっと、怒ってるんですかね、買わなきゃ良いのに・・。そしてその蜜柑を

墓石に映つてゐるは夏蜜柑 岸本尚毅

なんて使ったり。

明日食べむ瓜あり既に今日楽し

なんて楽しそう、楽し、なんて言葉も必要があれば、やはり使って良いんです。

籔蚊には頻にぐさと刺されけり

ぐさって、そんなに・・・、でも薮蚊だから、なんか痛そうですらありますね。でもね、そんなに・・・。

動揺もするなり蜂に螫されては

そんな事言わなくて良い事です、もう厳粛に言い訳。

藷讃めて曾て人後に落ちざりき

まわりくどい・・・、藷が好きとどうして素直に言えないのでしょうか、でもそこが、面白い。

くちなはを口ある縄と亦説けり

うん、違いますしね。

改めて生けし芒に又飽かぬ

でも、改めて、とあるので、芒、好きなんですよ、そう言えば良いのに・・・。

忘れ得ぬ柿の名なれや猿泣かせ

確かに忘れられないですね、猿泣かせ、すごい名前ですね、びっくりするぐらい美味いのかなぁ。

あな冷た見る目嗅ぐ鼻開く耳の

手が冷た頬に当てれば頬冷た 波多野爽波

二大冷た俳句。

わが目にも真に迫らぬ案山子立つ

なんとも駄目そうなところが面白い。この横に

その一つ案山子にあらず歩きけり 岸本尚毅

をぜひ並べてみたい。

山々の笑ひ崩れし世も過ぎぬ

なんだか古き良き神々の世界のよう

寒烏吾を敵視す又無視す

鴉、上から目線だなぁ、というより瓜人さんが気持ちで負けてるのか・・・。

三つ食べて飽くべき栗を四つ食べし

これも素直になぜ栗が好きと言えない、でもだから面白い。

楽しげの柚子と湯浴みを共にせり

楽しげの柚子なんてなかなか言えないですね、良い言葉だなぁ。楽しき、では駄目、楽しげ、でないと。柚子がケラケラ笑っているかのよう。

寒鯉の凝然たるを凝視せり

寒鯉を雲のごとくに食はず飼ふ 森澄雄

ともに、リアルな鯉。

花見るや花に心を許しつつ

これぐらいの心のゆとりが欲しい、と思っていたら

風来の籔蚊にぐさと刺されけり

蟻の螫す痛さ籔蚊の螫す痛さ

熊蜂に絡まれたれど怺へけり

蚊、蟻、蜂、強し!ゆとりはあまりないですかね。この世は恐怖の虫だらけ。

空風に打擲されて我慢せり

もうオーバーに言ったもん勝ちですから。

刺す技に長けたる蜂の入り来る

ごきぶりに飛びつかれむとしたりけり

また来た虫、もう一日中虫と戦っているのでしょうか、社会や時代に対して闘っていると詠むとなんだかありふれていますが、こんな風に虫と人間が喧嘩のように(五分に)闘うとなると、俳句としてとても面白い。

幻の鷹も現の鷹も見し

鷹匠の鷹なくあそぶ二月かな 安東次男

も好き。

御器噛(ごきぶり)が観念しつつ打たしめき

強敵なればこそ、ほのかに情がわくというもの。

カメラの目逃れ続くる雪女郎

カメラと雪女郎って面白いですね、理知と理性みたいな感じですかね。

恐るべき八十粒や年の豆

別に食べなくても良いんです、そんなに、数えてまで。

寒鯉が古新聞に包まるる

古新聞によって感じが出てますね。

寒鯉をぐるぐる巻に新聞紙 細川加賀

と二大寒鯉新聞紙俳句です。

ぽつぺんをかたみに吹きて老夫婦

なんだか泣けますね、言葉もなくぽっぺんを吹く。

熟柿食ふ固より我を忘れつつ

落ち着いて食べれば良い。

蚊に食はれ籔蚊に食はれ血が減りぬ

どんだけ巨大で凶暴な蚊なんでしょう。蚊を詠まして瓜人さんの右に出る人がいるでしょうか。

老人を一掃すべく寒の来し

こういうのが作れるようになるのならば歳を重ねるのも良いかもなと思います。

諸々の女の中の雪女

よくわかります。個人的な好みですが、小雪みたいな。ひんやりした美女。

どうですか、瓜人さん、今回は名句というよりも、面白いと思う俳句をたくさん挙げました、立派な俳句だけ挙げればまた違う瓜人像が浮かぶでしょうけど、僕はこっちの瓜人さんの方が好きです。サクッとした文庫本にでもなり、たくさんの人が読めるようになれば良いなと思うのですが。知られていないのは、作家本人の力量だけでなく、単に読める本があまりないというだけ(瓜人は全句集がわりと安く手に入ります、ここまで読んでいただいた方、全員買ってください)という事もあります、まだまだ、面白い作家はたくさんいます、俳句を読む事は作る事と同じく楽しい。僕は、通好みなんて全然良い言葉と思いません、瓜人さんもっと読まれるようになると良いなぁ。

1 コメント:

匿名 さんのコメント...

読みました。