〔週俳12月の俳句を読む〕
仲冬八景
久留島元
冬まっただ中である。
週刊俳句にも真っ正面から冬らしい句が並んだ。
雪しんしん夢のなかでは鳥けもの 土肥あき子「雫」
夢のなかでは人間である必要がない。そんな「夢」の本意ともいうべき王道を詠んで嫌味がないのは、やはり「雪」降り積む、冬ならではだろう。
冬うららか駅の鏡に身を屈め 上田信治「レッド」
プラットホームにある鏡か。「駅の鏡」というだけで、いつもと変わらぬ、ちょっと疲れた日常が立ち上がってくる。日常にさしこむ、つかの間の暖かさ。お仕事、ご苦労様です。
たたたたと音散るヘリや日短か 広渡敬雄「山に雪」
なるほど、空から降ってくるようなヘリコプターのあの音は「音散る」なのか、と。結句のやや舌足らずにもみえる納め方が、短日のヘリコプターによく似合う。
ほんたうの夜のきてゐる海鼠桶 高橋博夫「玄冬」
夜の枕詞は「ぬばたまの」。ヒオウギの種子が黒い玉状だからという説と、「沼」「泥」に類似する語とする説がある。「海鼠桶」を包む冬の夜は後者の説に従いたい。まさしく「ぬばたまの」闇が近づく気配である。
豚やをら語りだす狐火のこと 荒川倉庫「豚一五〇句」
西川徹郎を彷彿とさせる豚の大群に圧倒される。文意不明瞭の句もあったが、掲句は説明臭い「やをら」の唐突さと「豚」「狐火」のゴタゴタした感じが胡散臭さを倍増していて面白い。
残雪にデラべっぴんの現はるる 杉原祐之「不健全図書」句集より
東京都の発布した青少年健全育成条例に見られる「不健全図書」なる文言を契機に編まれた特集のなかの一句。ともすれば下ネタ、ネットスラングを取り入れた機会詩が多いなか、独立して楽しめる句。「恐るべき君らの乳房夏来る 三鬼」の風情か。「デラべっぴん」は下記脚注を参照されたい。
「不健全図書」
http://kotobank.jp/word/%E4%B8%8D%E5%81%A5%E5%85%A8%E5%9B%B3%E6%9B%B8
「デラべっぴん」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%A9%E3%81%B9%E3%81%A3%E3%81%B4%E3%82%93
「デラべっぴん」
http://matome.naver.jp/odai/2125903882208730263/2125904100443064820
生き急ぐ息を冬野に鎮めたる 灌木「仕様書」
四季の野を詠んだ群作の一句。上五で切って読むと、「生き急ぐ/息を冬野に鎮めたる」。息する間も惜しみ生き急ぐ主人公、いつか冬野に帰って安らう日は来るのだろうか。
文旦の帝王のまま年を越す 十月知人「聖家族」
「聖家族」はキリスト親子のことだが、十月知人氏の群作は神話的なイメージを帯びつつ、あくまで日常を起点としている。掲句は文旦(ブンタンって音がいい)の、ふてぶてしい貫禄が見事である。
補遺
亀鳴けり豚が組み敷かれてをれば 荒川倉庫「豚一五〇句」
豚束ねゆく炎天の豚の父
豚のかの雪合戦の誤算かな
豚を虻回り天動説のこと
実兄と夜の食生活をいとなむ 御中 虫「不健全図書」句集
水中花ロビンはバットマンが好き さいばら天気「不健全図書」句集
■土肥あき子 雫 10句 ≫読む
■上田信治 レッド 10句 ≫読む
■高橋博夫 玄冬 10句 ≫読む
■広渡敬雄 山に雪 10句 ≫読む
■荒川倉庫 豚百五十句 ≫読む
■十月知人 聖家族 ≫読む
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