2011-09-18

〔週俳8月の俳句を読む〕藤田哲史

〔週俳8月の俳句を読む〕
瞬間ではなく

藤田哲史


蚰蜒の一部分なり落ちてゐる   奥坂まや

蚰蜒は節足動物の一つ。外見に関しては、百足と似通う。句意は、家屋内の蚰蜒の死骸の一部を見たという、それだけのことだが、下五「落ちてゐる」に死への哀感を忍ばせた。死骸に見入る束の間、時間の経過を的確に言いとめている。


夕涼の祇園に小さき芸の神   前北かおる

実際は、祇園路地奥の小さな社に芸事の神が祀ってあるということだろう。神の社が小さければそこに住まう神の体格も小さいだろう、という他愛なくほほえましい発想を一句に仕立てたものか。「夕涼」のさっぱりとした季節感が、うまく全体のバランスをとっていると思う。


部員倍増と大文字の薪に    前北かおる

大文字の薪に願いごとを書き込めるのを、資金調達の一つにしているらしい。大文字の送り火はそもそも盂蘭盆の行事の一つだが、送り火ほどの規模の大きな「イベント」になると、開催側は俗欲も大いに大歓迎という姿勢にならざるを得ないのか。ややプライベートな「部員倍増」の願いと共に、焼かれゆく大文字の幾多の薪。


第224号2011年8月7日
湾 夕彦 蒟蒻笑ふ 10句 ≫読む
第225号 2011年8月14日
陽 美保子 水差し 10句 ≫読む

第226号 2011年8月21日
奥坂まや 一部分 10句 ≫読む
前北かおる 蕨 餅 10句 ≫読む
第227号 2011年8月28日

藺草慶子 秋意 10句 ≫読む



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