〔週俳8月の俳句を読む〕
瞬間ではなく
藤田哲史
蚰蜒の一部分なり落ちてゐる 奥坂まや
蚰蜒は節足動物の一つ。外見に関しては、百足と似通う。句意は、家屋内の蚰蜒の死骸の一部を見たという、それだけのことだが、下五「落ちてゐる」に死への哀感を忍ばせた。死骸に見入る束の間、時間の経過を的確に言いとめている。
夕涼の祇園に小さき芸の神 前北かおる
実際は、祇園路地奥の小さな社に芸事の神が祀ってあるということだろう。神の社が小さければそこに住まう神の体格も小さいだろう、という他愛なくほほえましい発想を一句に仕立てたものか。「夕涼」のさっぱりとした季節感が、うまく全体のバランスをとっていると思う。
部員倍増と大文字の薪に 前北かおる
大文字の薪に願いごとを書き込めるのを、資金調達の一つにしているらしい。大文字の送り火はそもそも盂蘭盆の行事の一つだが、送り火ほどの規模の大きな「イベント」になると、開催側は俗欲も大いに大歓迎という姿勢にならざるを得ないのか。ややプライベートな「部員倍増」の願いと共に、焼かれゆく大文字の幾多の薪。
第224号2011年8月7日
■湾 夕彦 蒟蒻笑ふ 10句 ≫読む
第225号 2011年8月14日
■陽 美保子 水差し 10句 ≫読む
第226号 2011年8月21日
■奥坂まや 一部分 10句 ≫読む
■前北かおる 蕨 餅 10句 ≫読む
第227号 2011年8月28日
■藺草慶子 秋意 10句 ≫読む
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