2012-07-15

林田紀音夫全句集拾読222 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
222




野口 裕




碾臼の夜がしたたかに甦る

昭和五十七年、未発表句。穀物を粉砕するのに、碾臼は欠かせない道具である。その作業が夜と結びつくのも容易に想像ができる。その経験が脳裏に甦ることもあるだろう。問題は、なぜ「したたかに」という措辞を置いたかというところにある。

もう消えたと思った記憶が甦ったという驚きだけではない感情が、そこに込められていると見て良いだろう。紀音夫の経歴からすると、戦争体験と結びつくと考えるのが一番素直な解になるが、はたして合っているかどうかはこの句だけからは読み取れない。「したたかに」は、謎のまま残る。

 

来る日来る夜のさびしさを活ける

昭和五十七年、未発表句。「来る日来る夜」というありきたりの措辞、「さびしさ」という主観丸出しの言葉、どうしようもなく駄目な句になるはずが「活ける」と置くことで俄然生彩を帯びる。これ以上はどう書いても句を殺すことになるので、やめておく。

 

階段の途中老人ばかり増え

昭和五十七年、未発表句。紀音夫の性向を考慮すると、老人は老残を意味する可能性もあるが、階段に腰掛けながら談笑する老人のグループを活写したと見る方が面白い。「ばかり増え」に巧まざるユーモアを感じる。

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