2014-02-02

SUGAR&SALT 11  黒板と黒板拭と冬休 三橋敏雄 佐藤文香

SUGAR&SALT 11 
黒板と黒板拭と冬休 三橋敏雄

佐藤文香

「里」2011年2月号より転載



起きぬけやもうギラギラの初日の出  三橋敏雄

初日の出を詠んだ句で思い出せる作品などなかった、この句を見るまでは。

句集で見てもギンギラギンだが、さりげなく配置されている。これから毎年一月一日には「あけましておめでとう」のかわりに「今年ももうギラギラですね」とご挨拶しそう。初日出の他の句は私の脳にはインプットされそうにない。「起きぬけや」の素っ頓狂さも含め、まるで『すごいよマサルさん』(うすた京介)の劇画チックな一コマのようだ。

舌といづれほぐるるつぶのたらこかな  三橋敏雄

文字を見ただけで笑顔になれる名句、というのも珍しい。明朝体で書くと、「つ」「れ」「る」「ふ」「ら」の丸みをもった右上がりのラインのならびに魅了される(明朝体でないと、特に「ふ」の空気感が出ない。余談だが〈ふはふはのふくろうの子のふかれをり(小澤實)〉は「ふ」及び平仮名の空気感を生かした最たるもの)。

「づ」「ぐ」「ぶ」の濁点が、または「ほ」「る」「ふ」「の」「な」の持つ穴が、たらこの粒に見えてくる。「れ」「る」「ら」のラ行音と平仮名の関係はさくらももこの世界に通じる愛しさ。「ぐるるつぶ」部分、ウの母音を読むときにすぼむ口も可愛いのである。

上の二句は、現代の日本の漫画文化と隣接する俳句だと思う。『しだらでん』というタイトルも、それだけで面白い日本語だ。〈鳥雲に美人うごけばわれ動く〉〈松風や生盆のわがはげあたま〉あたりは、ギャグ漫画にしか見えない。と言うと怒られそうだが、そう言い切りたくなるほど圧倒的に面白いではないか。文字がそれ自体画像としてあり、その意味が映像となって沿う。これは、いける気がする。

2005年に映画化された『ALWAYS 三丁目の夕日』(漫画タイトルは『三丁目の夕日』)のように、昭和ノスタルジーを嗜好する日本らしさを持つ句もある。

手の甲はつひぞ使はず竹とんぼ  三橋敏雄
待針のつまみの花は母の花

この二句に関して言えば、具体的な懐かしい道具(竹とんぼ/待針)に加えてパーソナルな指先の触覚(手の甲・使/つまみ)を伴う点で、一般的な郷愁(つひぞ〜ず/母の花)で終わらず読者に染み入る。竹とんぼでほとんど遊んだことがない世代でさえ、遊び方さえ知っていれば郷愁の追体験が可能となる。

作品として妥協なく俳句を知らない人にも理解される句が並ぶ句集を、三橋敏雄は既に出していたのだった。私が俳句と出会うちょうど2年前、11月のことである。

1 コメント:

ノラ さんのコメント...

竹とんぼで遊ぶのに手の甲を使うか?
当たり前のことを詠んでも名句とはならないこと作者も知っているのだろう。昔のおもちゃ「竹とんぼ」を使うことで俳句らしくみせようといういやらしい気持ちが丸見え。