2015-11-01

2015角川俳句賞落選展  19 折勝家鴨 「塔」テキスト

19.  折勝家鴨 「塔」

冬銀河子が減り子守唄が減り
鳥は枝に大樹は山に冬深し
冬立つやひとりひとつの顕微鏡
寒柝の耳にイヤホンありにけり
松過や手の中軽き雀の死
棕櫚の葉は音を絶やさず春隣
雪解や轍やくかいにして愉快
薄氷や睫毛の長き男の子
ふみきりの音なく開く寒露かな
臘梅や水を掃きたる竹箒 *
水仙の固まり咲や頭痛せり
春寒や白樫太き画家の家
理科室の棚に鍵あり梅の花
ペンいつも心にありしクロッカス
鳥雲に入る半地下の文芸部
春深しハモニカに舌乱れつつ
雨空に町の古びしつばくらめ
雨止んで菠薐草の茹で上がる
春の日やパスタの白子こんもりと
囀や海風に干すバスタオル
画用紙の空は一色夏隣
ジーンズを履いて臍出る立夏かな *
風ひとをさびしくさせるパセリかな
紙折つて塔の立つなり夏はじめ *
靴擦れは少女のこころ花薺
空席に木の影ありし五月かな
分校や蟻の集まるひとつの死 *
眼の端に動くものある薄暑かな *
丸まつて眠る地球や栗の花
梅雨深し電光ニュース来ては去る
心臓のかたちに百合の蕾かな
爪噛んで六月の音したりけり
耳美しき耳遠きひと著莪の花
出世とは無縁の名刺花南瓜
掛香の女の肘の尖りけり
噴水の止まりて言葉詰まりたる *
われは今海に迷ひし夏の蝶
足首の無防備にある泉かな *
ロボットの胸に脳ありソーダ水
日盛や時に値のつく道具市
少年の夏自転車を分解す *
蟬時雨腕立て伏せの胴長し
白ハンカチーフ笑顔も泣き顔も
日盛や鳩を散らして人を待つ *
声出して心戻しぬ草の花
星と星引つ張り合ひて涼しさよ
さみしからずやオリーブの実と文学と
秋澄むや野にはればれと膝頭
虫の夜や遅れて消ゆる車内灯 *
雁渡し本棚本と共に古る

 *「俳句」11月号掲載句



■折勝家鴨 おりかつ・あひる
昭和37年生まれ。
平成15年9月鷹俳句会入会。
平成24年鷹俳句会新葉賞受賞。
鷹同人・俳人協会会。

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