25. 宮﨑玲奈(宮﨑莉々香)「眠る水」
葉桜や父の手紙を捨てられず
紫陽花の芯の深くに水のいろ
指触れて蛾のうすわかきところなり
夏シャツに抱き寄せられしかたちかな
涼しさや花屋は水を捨てて嗅ぐ
鳥来れば泉の泉らしくなる
そこらじゅう残像そこらじゅう向日葵
新涼のコップや水を指が持ち
祖母の死を蜩として悼むかな
おおきな良夜のちいさなコンビニの聖書
古本は菓子の香マスカットが近い
蔦である或るいは図絵の窓である
茸狩りへ行く大学の授業かな
嵐や風の転校生は鹿をみる
したたかや林檎の皮の厚き箇所
しあわせを語り蜜柑のへた光る
思い出は止まず運動会の土
鷹去って吾の右手への気配かな
潜るや尻のきわだっており街の鴨
冬枯れのサラリーマンの目を労わる
鯛焼きを分け合い星に歴史かな
まっとうに濡れし海鼠を見失う
電話がなくてポインセチアの絵らしくなる
柚子湯にてもまれて柚子のやわらかさ
滴りてしんがりの透く氷柱かな
一年が眠り歌留多に金ひとすじ
親戚や同じかたちの雑煮餅
雪降って電車の床の砂漠色
斜交に渋谷の蛇の眠りに入る
ふるさとは獣の山や竜の玉
オムライスの丘を崩せば春はじまる
恋猫の足より濡れて瓶となる
立子忌の壁と画鋲の愛しあう
春雨のあとの静かな象舎かな
風は来したんぽぽの輪を解くように
卒業や写真にうつる大きな木
花冷えやマンションどれも小さき窓
レガッタの一人遅れて櫂を取る
実感や詩のように飛ぶ春の蜂
あげまんぢゅうのぢが好きなのだ春の虫
教室に蝶いて先生がやさしい
遠足の子のちらじらの目線かな
草餅の愛嬌ほどの草たまり
美しく病み薔薇園の夜のこと
平家は眠り山は五月の青さへと
新聞に裏側のなし著莪の花
さびしきは今日のさよなら槐咲く
ポスト灼けて投函口の銀の窓
空蝉であり風の鳴る箇所であり
金魚泳げばうしろを眠るような水
●
■宮﨑玲奈 みやざき・れな 〔現:宮﨑莉々香 みやざき・りりか〕
1996年生まれ。「円錐」「群青」「蝶」同人。
葉桜や父の手紙を捨てられず
紫陽花の芯の深くに水のいろ
指触れて蛾のうすわかきところなり
夏シャツに抱き寄せられしかたちかな
涼しさや花屋は水を捨てて嗅ぐ
鳥来れば泉の泉らしくなる
そこらじゅう残像そこらじゅう向日葵
新涼のコップや水を指が持ち
祖母の死を蜩として悼むかな
おおきな良夜のちいさなコンビニの聖書
古本は菓子の香マスカットが近い
蔦である或るいは図絵の窓である
茸狩りへ行く大学の授業かな
嵐や風の転校生は鹿をみる
したたかや林檎の皮の厚き箇所
しあわせを語り蜜柑のへた光る
思い出は止まず運動会の土
鷹去って吾の右手への気配かな
潜るや尻のきわだっており街の鴨
冬枯れのサラリーマンの目を労わる
鯛焼きを分け合い星に歴史かな
まっとうに濡れし海鼠を見失う
電話がなくてポインセチアの絵らしくなる
柚子湯にてもまれて柚子のやわらかさ
滴りてしんがりの透く氷柱かな
一年が眠り歌留多に金ひとすじ
親戚や同じかたちの雑煮餅
雪降って電車の床の砂漠色
斜交に渋谷の蛇の眠りに入る
ふるさとは獣の山や竜の玉
オムライスの丘を崩せば春はじまる
恋猫の足より濡れて瓶となる
立子忌の壁と画鋲の愛しあう
春雨のあとの静かな象舎かな
風は来したんぽぽの輪を解くように
卒業や写真にうつる大きな木
花冷えやマンションどれも小さき窓
レガッタの一人遅れて櫂を取る
実感や詩のように飛ぶ春の蜂
あげまんぢゅうのぢが好きなのだ春の虫
教室に蝶いて先生がやさしい
遠足の子のちらじらの目線かな
草餅の愛嬌ほどの草たまり
美しく病み薔薇園の夜のこと
平家は眠り山は五月の青さへと
新聞に裏側のなし著莪の花
さびしきは今日のさよなら槐咲く
ポスト灼けて投函口の銀の窓
空蝉であり風の鳴る箇所であり
金魚泳げばうしろを眠るような水
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■宮﨑玲奈 みやざき・れな 〔現:宮﨑莉々香 みやざき・りりか〕
1996年生まれ。「円錐」「群青」「蝶」同人。
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