2016-05-22

【週俳4月の俳句を読む】俳句の「中味」 上田信治

【週俳4月の俳句を読む】

俳句の「中味」

上田信治



剥がすべき国旗のシール 現代鳥葬 髙田獄舎 
現代鳥葬 到達できぬ惑星を滅ぼし

これは阿呆陀羅経だと思うのですよ。悪い意味ではなく。そういえば日本のロックバンド「人間椅子」にも、阿呆陀羅経という曲がありました。高田さんの作品自体、人間椅子とか椎名林檎の詞ような方向性でもある。

雨を見るフロントガラス花疲 兼城 雄 
飛行機のまつすぐ進む春のくれ

パンの耳買つて花散る夕べかな 引間智亮 
流れゆく人工言語海雲喰う

17音のある部分を使って、フレーズを提示。残りの部分を使って、俳句にする。典型的な方法ではあるのですが、そのとき「何」が俳句になるのが価値あることなのか。

内容に対する納得や共感、季語のイメージが豊かに展開することなどが、価値とされる場合が多いのですが、何が俳句になったんだか、簡単に言えないようなものが、俳句になることが、いちばん価値あることなんじゃないか。

手のひらの水を飲む犬春なかば 満田春日

「何が」という話の続きでいえば、満田さんの10句は春愁の気分がそれに当たるのでしょう。そして、この句の場合、犬の安心しきった頭部を見ている「わたし」に流れる時間を、作者が見ているという、隠れた二重性から、その気分が生まれていると思う。

俳句の「中味」が、フレーズの内容や、季語、あるいは物語などから、直接に生じているのではないところが、尊いわけです。

孵卵器の扉が開いて花ミモザ 満田春日

ミモザの花のあの重ったるい明るさと、孵卵器の人工の光の生む深い影。主人公は、卵のことを意識から飛ばしてしまった? これもやっぱり春愁ですかね。

春風みたいにしますねと美容師笑ふ 工藤玲音 
島民を乗せて彼岸の船つやつや

何が「中味」か、といえば、そう言えてしまう私、か。この私をアイコンとして楽しめるかどうかで、この一連の読者となれるかどうかが分かれるのかもしれない。

おこるひとゐなくて春の雪に尿 淺津大雅

性根がすわったこどもっぽさだ!と思えると楽しい句。

石哭くや贄にたちこめたる霧を 九堂夜想 
前生の霧をししふし言う野巫か
霧をかの命命鳥は血下ろしへ

作者従来の捉えがたさと違って、ここにはマントラのように「キリオ…キリオ…」とつぶやきつづけるシャーマンのような発話主体があって、そのかっこよさが「中味」ですね。



第467号 2016年4月3日
髙田獄舎 現代鳥葬 10句 ≫読む
兼城 雄 大人になる 10句 ≫読む
第468号 2016年4月10日
満田春日 孵卵器 10句 ≫読む
引間智亮 卒 業 10句 ≫読む
第469号 2016年4月17日
工藤玲音 春のワープ 10句 ≫読む
益永涼子 福島から甲子園出場 10句 ≫読む
第470号 2016年4月24日
九堂夜想 キリヲ抄 10句 ≫読む
淺津大雅 休みの日 10句 ≫読む

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