【週俳12月の俳句を読む】
心に響く
竹内宗一郎
心に響く俳句には、個性がある。個性の所在は、対象となる「もの」だったり、「こと」だったり、テーマだったり、切り取り方だったり、表現方法だったり。
多くの人が抱いている「俳句」に対する先入観、思い込み、間違った一般的な情緒を打ち破り、作品が個性をもって読み手から詩としての価値を得たとき、俳句は作品として普遍性を持つことになる。
■松井真吾 フラメンコスタジオ
スリッパの重ね連なる雪催 松井真吾
団体客用の旅館とか、企業の保養所とかをイメージした。もちろん上等なスリッパではない。使い古されたスリッパである。「重ね連なる」がそれを象徴する。そしてそれに続く「雪催」という季語が実にスムーズに周りの環境(場所、時候)を表出させることに成功していると思う。
葱構えわたしのほうへ歩きだす 松井真吾
緊迫感あり。何か危機を感じるシーン。この切り取り方が個性的で見事。台所から作者をキッと睨むご夫人を想像してしまった。が、しかし命まで奪われるほどではなさそう。頭が多少葱臭くなることはあるかもしれないが。
■桐木知実 控え室
鴨なくやキリスト教の街宣車 桐木知実
鴨の声から入る、そして「や」で切れてはいるが、それに重なるようにキリスト教の街宣車のスピーカーからの声が近づいて来る。こう来ると私など勝手に東京上野界隈、不忍池あたりを想像してしまう。神社仏閣老病死とは無縁の間違いなく現代の景。
■滝川直広 書体
廃屋をこはさぬやうに照らす月 滝川直広
静かで端正な把握。「こはさぬやうに」で優しい月明かりが見えてくる。こういう繊細な把握も個性であり、詩をもたらすのに重要な要素だと思う。
■上田信治 朝はパン
鳩とガスタンクもうすぐクリスマス 上田信治
「鳩」と「ガスタンク」の取り合わせが好い。ここで読者は視覚的に過去に見た景色、空間をイメージする。ただ、ここまではどちらかといえば無機的で情緒を排した把握。それが「もうすぐクリスマス」という時間の表出で一変する。クリスマスに対する各々の読者の思いが一気に作品のイメージを膨らますのだ。お見事。
■村田 篠 握手
左右から別の音楽クリスマス 村田 篠
クリスマスの街の喧騒。歩いていると、左右の店舗から聞こえる別の音楽。あるいは違う商店街のスピーカーなのかもしれない。さもありなん。まさに現代の街の様子をしっかりとした聴覚で捉えた。
冬晴や巣鴨プリズン跡に猫 村田 篠
キーンと冴えわたる青空。巣鴨プリズン跡といえば、見上げれば池袋サンシャインである。しかしそこから視線は下方へ。最終的に焦点が当たるのは、そこに居る猫である。これで絵が完成する。鮮やか。
手袋を脱いで握手のあたたかき 村田 篠
手の温かい人は心が冷たい、などと言われたりする。だけど、実際手袋を脱いで握手するとき、手袋の中にあった手はきっとあたたかいだろう。そんなところに着目するのも個性。
■西原天気 抱擁
夜遊びは夜空のやうな毛皮着て 西原天気
「夜遊び」ときて、「夜空のやうな」でぐっと読者の心を掴む、書かれていないことまで考えさせる、想像させる。仕方ないですよそれは。何しろ夜遊びなのだから。うーん「夜空のやうな毛皮」この把握、感覚が心に響く。
コートごとぎゆつてしたいけどがまん 西原天気
素晴らしい。「がまん」で終わる句を初めて見た。「コートごと」の言葉の選択も好いし、「ぎゆつてしたい」と幼児のような言葉遣いで心根を表出させるのもまさに個性。そうです、がまんがまん。
多くの人が抱いている「俳句」に対する先入観、思い込み、間違った一般的な情緒を打ち破り、作品が個性をもって読み手から詩としての価値を得たとき、俳句は作品として普遍性を持つことになる。
■松井真吾 フラメンコスタジオ
スリッパの重ね連なる雪催 松井真吾
団体客用の旅館とか、企業の保養所とかをイメージした。もちろん上等なスリッパではない。使い古されたスリッパである。「重ね連なる」がそれを象徴する。そしてそれに続く「雪催」という季語が実にスムーズに周りの環境(場所、時候)を表出させることに成功していると思う。
葱構えわたしのほうへ歩きだす 松井真吾
緊迫感あり。何か危機を感じるシーン。この切り取り方が個性的で見事。台所から作者をキッと睨むご夫人を想像してしまった。が、しかし命まで奪われるほどではなさそう。頭が多少葱臭くなることはあるかもしれないが。
■桐木知実 控え室
鴨なくやキリスト教の街宣車 桐木知実
鴨の声から入る、そして「や」で切れてはいるが、それに重なるようにキリスト教の街宣車のスピーカーからの声が近づいて来る。こう来ると私など勝手に東京上野界隈、不忍池あたりを想像してしまう。神社仏閣老病死とは無縁の間違いなく現代の景。
■滝川直広 書体
廃屋をこはさぬやうに照らす月 滝川直広
静かで端正な把握。「こはさぬやうに」で優しい月明かりが見えてくる。こういう繊細な把握も個性であり、詩をもたらすのに重要な要素だと思う。
■上田信治 朝はパン
鳩とガスタンクもうすぐクリスマス 上田信治
「鳩」と「ガスタンク」の取り合わせが好い。ここで読者は視覚的に過去に見た景色、空間をイメージする。ただ、ここまではどちらかといえば無機的で情緒を排した把握。それが「もうすぐクリスマス」という時間の表出で一変する。クリスマスに対する各々の読者の思いが一気に作品のイメージを膨らますのだ。お見事。
■村田 篠 握手
左右から別の音楽クリスマス 村田 篠
クリスマスの街の喧騒。歩いていると、左右の店舗から聞こえる別の音楽。あるいは違う商店街のスピーカーなのかもしれない。さもありなん。まさに現代の街の様子をしっかりとした聴覚で捉えた。
冬晴や巣鴨プリズン跡に猫 村田 篠
キーンと冴えわたる青空。巣鴨プリズン跡といえば、見上げれば池袋サンシャインである。しかしそこから視線は下方へ。最終的に焦点が当たるのは、そこに居る猫である。これで絵が完成する。鮮やか。
手袋を脱いで握手のあたたかき 村田 篠
手の温かい人は心が冷たい、などと言われたりする。だけど、実際手袋を脱いで握手するとき、手袋の中にあった手はきっとあたたかいだろう。そんなところに着目するのも個性。
■西原天気 抱擁
夜遊びは夜空のやうな毛皮着て 西原天気
「夜遊び」ときて、「夜空のやうな」でぐっと読者の心を掴む、書かれていないことまで考えさせる、想像させる。仕方ないですよそれは。何しろ夜遊びなのだから。うーん「夜空のやうな毛皮」この把握、感覚が心に響く。
コートごとぎゆつてしたいけどがまん 西原天気
素晴らしい。「がまん」で終わる句を初めて見た。「コートごと」の言葉の選択も好いし、「ぎゆつてしたい」と幼児のような言葉遣いで心根を表出させるのもまさに個性。そうです、がまんがまん。
■滝川直広 書体 15句 ≫読む
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