【週俳12月の俳句を読む】
少し濡れていて
小池康生
堪忍と言ふて色足袋脱ぎにけり 岸本由香
京都の女性だろう。上がり框で足袋を脱ぎながら「堪忍」と呟くワンシーン。遅れてきたことを謝っているのか。雨や雪で足袋を濡らし、訪問するなりいきなり脱ぐことを謝っているのか。いずれにしろ親しさしさが伝わりドラマを感じさせるワンシーン。劇的なことは何も起こっていないのだが、そそる。
スリッパの重ね連なる雪催 松井真吾
公民館などスリッパを一組づつセットにして箱に放り込む。場合によっては、長々とスリッパをつなぎ合わせる。その連なりは反り返り、山脈を連想させないこともない。さらには埃っぽく、違和感を覚えることもある。その景で切れ、一方に雪催。意外な取り合わせで、しかし納得させる。
老人の達治朗読初しぐれ 桐木知実
書いてある通りに読もう。老人が達治を朗読しているのである。作者はそれを聞いている。
外には初時雨。今年初めての時雨。冬に入った感慨。降ったかと思うとやむ雨。そんな季語と響きあう朗読。俳優の朗読でもなく、ベテランの朗読でもなく、老人の朗読。しっとり読めたり、読めなかったり、たどたどしさも自然な渋みも含む老人が読む達治。若い作者がそれを聞いている。
外には初時雨。今年初めての時雨。冬に入った感慨。降ったかと思うとやむ雨。そんな季語と響きあう朗読。俳優の朗読でもなく、ベテランの朗読でもなく、老人の朗読。しっとり読めたり、読めなかったり、たどたどしさも自然な渋みも含む老人が読む達治。若い作者がそれを聞いている。
捕らわれているクリスマスツリーかな 桐木知実
捕らわれているとは、どういうことだろう。大きなツリーが安全のためどこかに括られているをそう見たのか。それとも時事的に見れば、地方から神戸の港に運ばれツリーにされた木だろうか。そうだとしても、数年後、この句からその情報は消える。捕らわれているクリスマスツリー、それだけで面白い。「かな」が少し浮いているが。
青空は花鳥を育て神の留守 鈴木総史
下五に神の留守を据えながら、上の十二音のまぶしいほどの明るさ。なんとも新鮮。意外なところに直球を決められた痛快さ。
廃屋をこはさぬやうに照らす月 滝川直広
廃屋と月は合い過ぎる感じもするが、こはさぬやうにという微妙さがバランスを保ち、詩性を生む。照らし過ぎると壊れるとでもいうのだろうか。
初夢の中も単身赴任して 滝川直広
どうして単身赴任とわかるのだろう?そのシーンを具体的に知りたい気もするが、夢の中でも単身赴任とは面白い。当然、家族と一つ屋根の下に眠る正月のできごと。
北風が一方向へ人を押す 上田信治
「一方向って・・・」そういわせる確信犯。突っ込みどころを用意しておく、一見あたり前の世界。引き算に引き算を重ね、もっとも薄ぺらい世界に詩を炙り出そうとしているように見える。
タクシーの会社のありぬ冬の月 上田信治
夜道で、いろいろな場所から月を見る。なかでもタクシー会社のある場所から見る月がもっとも魅力的な場面に思えた。それだけでいいのだ。
朝はパン飛んでゐる白鳥を見る 上田信治
「パン食べて」では散文的。それを「朝はパン」とすると、信治俳句になってくる。
欲する目やがて鯨が尾をひねる 福田若之
主眼は、この目。なにを見たのだろう。何かが目に入り、巨体をひねって方向を変えた。
風邪すこし残りて財布買ひにけり 村田篠
関係のない関係性。読み手の想像力が広がり、意外な読後感を用意してくれる。
左右から別の音楽クリスマス 村田篠
例えば、商店街の右と左。別のクリスマスソングが流れてくる。これも写生と思うと、写生に軽みが生まれる。
板状に広がる寒さ日比谷口 西原天気
日比谷口ってどこだ。どんなところだ。板状に寒さ広がるところだ。
こゑとこゑ砂のごとくに十二月 西原天気
「砂のごとく」が、謎で、見せ場。わたしは、砂時計の中の砂を思い浮かべ、それが静かでかつ喧噪を感じさせるこゑと受け止めた。うるさくない喧噪。それが渦巻く十二月。なんとも深い詩性。
コートごとぎゆつとしたいけどがまん 西原天気
この軽さ。ぎゅっとしちゃえばいいのに。この人のこの軽さと、前句の深さ。油断させたり、緊張させたり。
裸木となりても鳥を匿へり 岡田由季
そうなのだ。裸木も鳥を守る。密集した枝は、小さな鳥を守る。鵯でさえ窮屈そうな裸木がたくさんある。葉も枝も小さな鳥を匿っている。裸木を見つめることで見えてくる真実。
■滝川直広 書体 15句 ≫読む
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