2018-05-13

【週俳4月の俳句を読む】組み立て直された景 小久保佳世子

【週俳4月の俳句を読む】
組み立て直された景

小久保佳世子


うたごゑの天の高きを組み上ぐる  吉川創揮

重層的なうたごゑ。合唱、特に讃美歌でしょうか。聴覚が視覚を刺激し天上を描いた宗教画が見えてきます。

冬晴に靴音届く自転かな  同

やはり聴覚の句ですが、突然の「自転かな」によってだんだん「冬晴」はどうでもよくなってゆき、靴音が地球規模に大きくなるようです。

牡蠣啜る太陽吊りて薄き街  同

「薄き街」が奇妙で、太陽が紙のようで平面的な二次元の街をイメージしました。街に人の気配はなく、牡蠣を啜る音だけが聞えてきます。

闇つうと蛇の鼻腔を抜けて春  同

目立たない蛇の鼻腔が大きくクローズアップされています。この句から「戒壇巡り」の長い闇を抜けた時を思い出しました。闇と一体になって進んだ出口は確かに春でした。

蝶の脚たんぽぽの絮乱さずに  同

作者は見逃しがちなポイントに焦点を合わせ、たんぽぽの絮に触れそうで触れない蝶の脚の動きを発見し、性能のよいカメラがとらえた一瞬のような一句に仕上げています。

かなしみの耳の熱しよ紫木蓮  同

「目頭が熱くなる」は感覚的によくわかりますが、その時耳もまた熱くなっているのかもしれません。「かなしみの耳」は、紫木蓮の配合によって更につーんと熱くなるようです。

春眠やあこがれて鳥降りてくる  同

「あこがれて鳥降りてくる」は意外です。天空を領分とする鳥世界に人はあこがれますが、鳥が降りてくるのは地上への「あこがれ」だったなんて。「春眠や」の宙ぶらりん感は不思議にいいです。


水菜食む遣唐使船すずしく朱  同

復元の遣唐使船の鮮やかな朱。水菜の色彩と相まって海辺の涼しさを演出しています。

牛りんと匂ひ立ちたる桜かな  同

「匂い立つ」は、辞書によると(美しさなどで)あたりが輝くように感じられることなので、この牛はただの牛ではないらしい。季語中の季語の桜が上手い脇役の働きをして、神々しい牛の佇まいを浮き上がらせています。

割れて窓光なりけり燕  同

凝った修辞ですが嫌味はなく、言い古されたテーマを新しくしています。

「空」10句は、独自な空間把握によって従来の景が組み立て直されたような面白さがありました。



【対象作品】
三輪小春 行く春 10句 ≫読む

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