林田紀音夫全句集拾読 082
野口 裕
昭和六十一年、「海程」発表句に、
水洟の遥かわずかに昏れ残る
とあって、唖然としたことがあった。同年の「花曜」にも発表している。水洟の句は、その後、
水洟の日暮れの海に突き当たる (平成二年、「花曜」)
水洟のさびしさの日に幾度か (平成二年、「花曜」)
水洟のしばらく海にたちどまる (平成三年、「海程」)
水洟のそれから仰ぐ錆びた空 (平成六年、「海程」)
水洟の不覚にも沖見遣るとき (平成七年、「花曜」)
と続く。句会をともにした人から話を聞く機会があり、彼が常々自作を「どぶ漬け」と呼んでいたことを知った。そうしてみると、水洟の句の変遷は「どぶ漬け」のプロセスを表していることになるだろう。実際、最後の句がもっとも良い。
平成二年、「海程」発表句に、
影のない弔旗の街を歩きだす
があり、昭和天皇の死に関わる句と判じた。平成二年の「花曜」発表句では、一読してそれと分かる句はない。
樒立つ時として雨降りかかり
香煙の昼しばらくはとどこおる
通夜の燭或る時強く影揺れる
雨まじる読経の声の昼過ぎて
新しく経木を書いて起きあがる
と、葬儀の場面を描写した句が連続してあるが、昭和天皇との死と関連して読むのは難しい。ひょっとすると、「どぶ漬け」の結果、句が変貌してしまったか。
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2009-08-30
林田紀音夫全句集拾読 082 野口裕
Posted by wh at 0:20
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