2009-11-22

林田紀音夫全句集拾読 093 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
093




野口 裕





泰山木の花の明るさ悲傷の街

平成八年、「花曜」発表句。「悲傷と鎮魂-阪神大震災を詠む」(朝日出版社)に寄稿しなかったことを考え逢わせて読むと、興味の湧く句。

震災のまず地上より火の手あがる

平成八年、「花曜」発表句。地震後の火災を読んだ句は、紀音夫の震災句の中では例外に属する。後から得た情報に基づいた句だろう。

電柱のほとんど傾ぐ鴉のため

平成八年、「花曜」発表句。震災関連の句の中にあるので、震災後の風景と分かるが、これだけ取り出すと鴉が電柱をなぎ倒したようにも読める。連続した句の流れの中で読むか、単独で読むかで、印象が変わってくる。


震災の夜が切なくて供花遺す
廃屋の夜は誰彼の灯をすこし
向日葵の昨日につづく今日おなじ
市民課へ矢印電話途中で切れ
漏刻の或る雨だれの夜もまじる
家を組む木の音いまは釘打つ音
散乱の夕日波打ち際に立つ

平成八年、「花曜」発表句。連続した七句を取りあげてみた。一句目は震災の語が出てくる最後の句。そこから、なだらかに、日常が震災から離れて行くようすが句から読みとれる。しかし、震災の傷は残照のように個々の句の中に入り込んでいる。

0 comments: