林田紀音夫全句集拾読 093
野口 裕
泰山木の花の明るさ悲傷の街
平成八年、「花曜」発表句。「悲傷と鎮魂-阪神大震災を詠む」(朝日出版社)に寄稿しなかったことを考え逢わせて読むと、興味の湧く句。
震災のまず地上より火の手あがる
平成八年、「花曜」発表句。地震後の火災を読んだ句は、紀音夫の震災句の中では例外に属する。後から得た情報に基づいた句だろう。
電柱のほとんど傾ぐ鴉のため
平成八年、「花曜」発表句。震災関連の句の中にあるので、震災後の風景と分かるが、これだけ取り出すと鴉が電柱をなぎ倒したようにも読める。連続した句の流れの中で読むか、単独で読むかで、印象が変わってくる。
震災の夜が切なくて供花遺す
廃屋の夜は誰彼の灯をすこし
向日葵の昨日につづく今日おなじ
市民課へ矢印電話途中で切れ
漏刻の或る雨だれの夜もまじる
家を組む木の音いまは釘打つ音
散乱の夕日波打ち際に立つ
平成八年、「花曜」発表句。連続した七句を取りあげてみた。一句目は震災の語が出てくる最後の句。そこから、なだらかに、日常が震災から離れて行くようすが句から読みとれる。しかし、震災の傷は残照のように個々の句の中に入り込んでいる。
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2009-11-22
林田紀音夫全句集拾読 093 野口裕
Posted by wh at 0:05
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