【俳句関連書を読む】
正直すごく面白い「つぶやき」
せきしろ/又吉直樹『カキフライが無いなら来なかった』
山田露結
書店でうろうろしながら『カキフライが無いなら来なかった』(せきしろ/又吉直樹・幻冬舎)という本を偶然手にした。帯に『「無修正の心」をありがとう 穂村弘(歌人)』とあったので、へぇ~と思って中をぱらぱらめくってみた。え、何コレ、自由律俳句?
落ちたはみがき粉ここで一番白い せきしろ
目を開けていても仕方ないので閉じる
バスタオルは無い小さいタオルで拭く
桜の花びら踏んでも音はしない
ひとりになって玄関が広い
死後も怒られる
醤油差しを倒すまでは幸せだった
言うほど近道ではなかった
眼鏡が曇ったもう負けでいい
幼児の玩具砂場で冬を越す
転んだ彼女を少し嫌いになる 又吉直樹
フタをしめない主義なのか
大人なのに行きつけの店がない
モータープールでは泳げないと知った夏の日
ひげ剃りにも負けた
まだ帰りたくないからナゾナゾに答えない
遠目に見ていた観覧車に明日乗る
ポケットに五円玉いつのものか
便座はおそらく冷たいだろう
まだ何かに選ばれることを期待している
著者は妄想文学の鬼才せきしろ氏と吉本興業のお笑いコンビ「ピース」の又吉直樹氏の二人ということだが、私はこの二人についてほとんど何も知らない。この本(句集?)には句のほかに散文もあって、こちらもかなりぐっとくる。正直、すごく面白かった。何故か妙な劣等感、嫉妬心さえ感じた。
「こんなの俳句じゃない。」と言ってしまえばそれまで。作者に聞いたって「ええ、俳句じゃありません。」と言うかもしれない。
もしかしたら、この本を読んで面白いと思うのと、いわゆる俳人の句集を読んで面白いと思うのとは意味が違うのかもしれない。
俳句というよりは単なる「つぶやき」だと言うことも出来るかもしれない。
しかし、普段見逃しがちな些細なことを日常から掬い取って面白く仕立て上げる、という意味ではこの「つぶやき」はかなり俳句的ではあるとは思う。
そして、いわゆる俳人の句集とはっきりと違うのは、この本がエンターテイメントだということだろうか。つまり、何かを表現したい、伝えたい、というのと同時に人が読んで面白いかどうかを意識しているということ。
せきしろ、又吉の両氏はプロのエンターテイナー(職業としていると言う意味で)だからそんなことは当たり前といえばアタリマエ。出版社にしたって「売れる本」を作ろうとするのは当然といえばトーゼンだろう。
もちろん、いわゆる俳人の句集が読者を意識していないということではないのだが、ここでは「面白い」の意味が違う(のだと思う)。まあ、比べること自体、野暮というものか。とにかくこの本が面白かった、ただそれだけのことなのである。
2009-11-15
正直すごく面白い「つぶやき」 せきしろ/又吉直樹『カキフライが無いなら来なかった』 山田露結
登録:
コメントの投稿 (Atom)
3 comments:
妄想なら負けないわと病院の薬を飲んでいる自分
黒髪に染め禁煙したらいいの女として
妄想と現実が入り乱れている頭の中
コメントを投稿