林田紀音夫全句集拾読 122
野口 裕
洋上の遁走髪を風に解き
昭和四十三年、未発表句。たぶん吾子俳句なのだろうが、髪の所有者の年齢を引き上げると、えらくロマンチックな光景に読者の目には映る。紀音夫の原質の中にそうしたものがあると、解するべきだろう。ときおり、未発表句の中にロマンチックな光景の句が混じるが、従前に展開されているとは言い難い。自選の段階で、落とされた可能性である。
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兵餐の傷いまも浮く風呂の中
風に流れる兵餐夕べ火を焚けば
昭和四十三年、未発表句。兵餐という言葉があるのかどうか、知らない。検索してもうまくヒットしないところを見ると造語かもしれない。行軍中の野外食と取れば、意味はすんなり通る。造語してまで確かめておきたい記憶なのだろう。
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ぜんざいに箸あそばせて月当たる萩
昭和四十三年、未発表句。第一句集に、「ぜんざいを食ひ終へし眼の遣り処かな」。食欲の差が歴然とある。自身の句を回想しつつ、物思いに耽る。有季回帰の端緒とも見える句。
タワークレーンの青ぞら死者のいろの海
昭和四十三年、未発表句。タワークレーンで画像検索をかけると、多くの写真の背景が青空となっている。
「あのクレーンは何と言うのかね。最近よく見かけるが。」
「ああ、タワークレーンですね。ビルの建設ラッシュですから。」
「タワークレーンか。そうかね…。」、そして、紀音夫は一句を得る。
紀音夫の職業上の立場から、こんな会話を想像してみるが、もちろん外れているであろう。
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2010-07-04
林田紀音夫全句集拾読 122 野口裕
Posted by wh at 0:05
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