林田紀音夫全句集拾読 132
野口 裕
雨に消される足音地上まで降りて
昭和四十七年、未発表句。階段を降りてゆくと、足音が響く。そのことばかりに気を取られていたが、地上に降りてみると、そこは雨音に包まれている。はじめて外界を意識した。
意識の向けられる方向が変化した一瞬をとらえた句。中句での句割れが有効に働いている。しかし、読みようによっては、薄味過ぎると見られるだろう。と言って、改作は難しそうだ。したがって、発表句、句集収録句に発展形は見当たらない。
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副葬の赤鉛筆を遺し寝る
昭和四十七年、未発表句。紀音夫には、いくつかの愛用語がある。星やガラス(硝子)やポプラ、傘・陸橋など。後年には、線香などの仏具、さらに後年には酸性雨等が加わる。しかし、鉛筆はあの句以降まったく登場しない。というようなことをよく論じているのだが、ここで例外を見つけた。あまりに有名になった鉛筆の句に対する、若干の自嘲も感じる。
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鉄塔の空の重たされんげ摘む
海峡に面影のふりーじあ流れ
昭和四十七年、未発表句。同一ページに、季語となる花をふくむ句が二句あるのは珍しい。紀音夫の句で、季語に相当する句がはいる場合、季語に負けないような重い語を入れることがしばしばある。比較すれば、後句の方に花の名の効果を認められるが、どちらの句も効きの弱い印象があるのは、「重たさ」よりも「面影」の軽さが有効に働いているのだろう。
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流されて石塔の苔身にはびこる
昭和四十七年、未発表句。このあたりから句に仏教臭を帯びてゆく。
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2010-09-12
林田紀音夫全句集拾読132 野口裕
Posted by wh at 0:30
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