林田紀音夫全句集拾読 179
野口 裕
晩節に水の匂いの夕明り
昭和五十一年、未発表句。ほのかな夕明かりの中で、水を見た。その水のあるかなきかの匂いを感じ取った。視覚に、嗅覚のわずかな供応を感じたのは年のせいだろうか。
晩と夕、付き過ぎもいいところだが、水と相まって欲のなさを感じさせる。こういう句があってもいいと思わせる。
雨騒に硬貨を鳴らす身のどこか
昭和五十一年、未発表句。激しいにわか雨。とりあえず、雨を避けられ場所へ移動を急ぐ。急ぐ動きに合わせるかのように、どこかでもらった釣り銭が音を立てる。急ぎながら、頭脳はふっと行動とは別のことを思考し出す。あの釣り銭は、どのポケットに入れたかな。
「身のどこか」が、句前半の賑やかな状況を一気に静める効果を発揮している。
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風呂敷を結ぶ湖雨けむり
昭和五十一年、未発表句。昭和五十四年「海程」の、「風呂敷を結ぶ水平線消して」に、不思議な句という印象があった。どうも、このあたりの見聞が基になっているようだ。「結ぶ」の連体形なのか終止形なのかわからない不安定さを解消する気はなかったようだ。鍵になる具体物を残しつつ抽象化に向かうことだけを考えた、ということになる。
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2011-08-28
林田紀音夫全句集拾読179 野口裕
Posted by wh at 0:05
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