2011-11-06

〔週俳10月の俳句を読む〕大井さち子

〔週俳10月の俳句を読む〕
はなれたりくっついたりして

大井さち子


とんぼうや瓦礫片づければ荒野  山口優夢

秋の暮闇が手足にとりつきぬ

まさに地獄の景である瓦礫の山、人々の努力でやっと片付けられはしたが、そこに広がるのは荒野、もとの生活に戻ることは無い。

自然界の大きさに手も足も出ず、人間はひどく小さく無力だ。

秋の夕暮、小さな闇が手足にとりつく。それは亡くなった人たちの彷徨う魂かもしれない。

これらは想望俳句なのか、実際にボランティアなどで汗を流した上での俳句なのかわからないが、震災を詠むには少なくともこれくらいの慎み=抑制は必要だろうと思う。



扇風機ぶーん山崎ハコの夏  かまちよしろう

ぶーんはたしかに山崎ハコのボキャブラリーの量を暗喩する言葉。

ぶーんとまわる扇風機。かえろうかぁふるさとにぃ♪・・・昭和のあの夏が待っている。

山崎ハコは健在で最近テレビでも見かけたが、森田童子はどうしているんだろう。

少し上の世代(だと思う)のあがた森魚は俳優もやっているらしいが。


お茶碗を父と名付けりゃ割れにけり

お茶碗の「お」にうすうすとした含羞がある。

面と向かってはオヤジと呼びつつ、心の中でおとうさんと呼びかけるような。

「けりゃ」の腕まくりしそうな勢いの後に、雪降る夜のような静けさで続く「割れにけり」。

お茶碗に父と名付けたことと割れにけりまでの間に横たわる細くて深いスリット。

謎の残る一句を放ち、父親とはこんなものとひゃらひゃら笑いつつ後姿が去ってゆく。


見上げれば星がみぁあみぁあ哭いている

だからなんだっていうのよぉとか言いながら星空の下をはなれたりくっついたりして歩きたい。

こういう男、そばに置きたい。


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