林田紀音夫全句集拾読 212
野口 裕
雪片に電話の途中見えてくる
昭和五十五年、未発表句。雪降り仕切る中を歩いていると、かすかに電話ボックスが見えてきた。次第に近づくと、電話中の人がいる。長電話らしい。
そんな景に読めた。紀音夫には、行きずりの女の人にちょっと心惹かれる、という句がときおり見かけられる。そのバリエーションだろう。
てぶくろの落ちてはかない花模様
昭和五十五年、未発表句。「はかない」に照応するよう、「てぶくろ」とひらがな表記されているところなどに、細心の工夫が見られる。
句会はときおり無頓着な言葉が行き交うことがある。そのような場に遭遇すれば、「はかない」に対する過剰な思い入れを指摘され、否定的な評価を下される句かもしれない。だが、路傍に落ちた手袋を見かけたとき、この句を即座に思い出すほどの力を備えた句であることは間違いない。その力の多くは、「はかない」の効用である。
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2012-05-06
林田紀音夫全句集拾読212 野口裕
Posted by wh at 0:05
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