〔俳コレの一句〕林 雅樹の一句
パンツという眺望
西原天気
干潟にてパンツな見せそお婆さん 林 雅樹
両脚を干潟に踏ん張り、腰を折って、顔と手を、水へと、砂へと近づける潮干狩りポーズは、老若男女変わらない。掲句は干潟としか書いていないが、パンツが見えそうになるのだから、潮干狩りの最中と思って差し支えないでしょう。
「~な~そ」の古語的口調(とパンツとの取り合わせ)、さらには「おばあさん」の5音が醸し出す茫洋感が、干潟の、あのなんとも言えぬ開放感、ちょっとさみしい開放感と相俟って、ある種、痛切な懐かしさを呼び、「これこそが日本の原風景なんじゃあないの」「パンツのかたちした故郷なんじゃあないの」とさえ言いたくなります。
このパンツ、ピタッ、ピチッとはしていなくて、ちょっと余裕がある。「これこそ日本的弛緩、日本的レイドバックなんじゃあないの」とも言いたくなります。
ところで「パンツ」は、私たちにとって重要な事物であるとともに、重要な概念です。ところが、俳句に詠まれることは少ない(海水パンツは別物)。名句もきわめて少ない。掲句は、広く知られる山田耕司《少年兵追ひつめられてパンツ脱ぐ》に加わるパンツの名句と考えてよろしいかと思います。
猿がパンツをはいて以来、長らくの時を経て(日本人がパンツをはいてからは、それほど時間は経っておりませんが)、やっと2句、パンツ名句を得たと思うと、感慨はひとしおです。
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