林田紀音夫全句集拾読 219
野口 裕
爪を切るうつむく影の夜の底
昭和五十六年、未発表句。照明は上にあるので、どちらに向いても爪を切る手元は暗い。暗いまま切れば、自身のうつむく姿勢を意識してゆく。夜の底には私一人だけのようだ。
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ガードレールに移る日いまだ残されて
昭和五十六年、未発表句。「いまだ残されて」に、自己意識の投影を見ることも可能だろう、だが、たまたま見かけた光景を、ちょっとしたメモとして残した句と見た方が面白く感じる。とっぷりと日の暮れるまで観察したくなるような衝動も秘めている。
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鍵かけて出る茫々と鰯雲
昭和五十六年、未発表句。広大な空の領域と主体の対比。あまりに小さな主体。だが、守るべきものがあり鍵をかける。
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2012-06-24
林田紀音夫全句集拾読219 野口裕
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