〔俳コレの一句〕
この人の遊び方 山下つばさの一句
上田信治
ゆらゆらと金魚のふんやヘリ通過 山下つばさ
金魚から、金魚のふんが切れずに、ゆらゆらとぶら下がっているわけです。金魚は、水槽を泳ぐともなく、横へ横へとたゆたうように移動している。金魚とはそういうものです。
と、上空を、ヘリが通過する音がきこえてきます。ぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱた。
はい、そうです。金魚とヘリコプターが似ているように、金魚のふんとヘリの音もまた似ているのです。ヘリの音は、ヘリコプターが、移動しながら垂れ下げるものなのだ、という発見が、ここにあります。
そしてヘリの音を聴いているうちに、次第に、私がいるこの街と空の大空間が、目の前の水槽とその中のジオラマのように感覚されてくる。
感覚的相似をテコに何かをねじまげる、このような句は〈時雨るるや伊豆半島をなぞる指〉〈木の芽時空へうろこを放ちけり〉〈海が森を飲み込むやうに春キャベツ〉と100句中いくつもあり、どれもたいへんあっけらかんとしている。
そこに、この作者が世界と遊ぶときの流儀のようなものが、うかがえると思います。
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