林田紀音夫全句集拾読 226
野口 裕
星のいくつか身を硬くして眠るため
昭和五十七年、未発表句。この句を読めば、第二句集の名作「いつか星ぞら屈葬の他は許されず」を思い出すことになる。ある意味、この句はかつての名作の自句自解となっている。「身を硬くして眠る」は、死後硬直のイメージだろう。それが、「屈葬」にある、死後に起こる自然の摂理さえ許されない異様な掟を照射している。
だが、自然の摂理に従ったとしても、死に対する想念がやむわけではない。紀音夫の句は、死の持つ二重性、自然と人倫の間を永遠に彷徨するように見える。
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雪の樹のきびしさは日の新しさ
子の声が澄み雪の幹雪の枝
昭和五十七年、未発表句。雪に関する二句。詠み手にある高揚感がそのままこちらに伝わってくるような詠みぶり。雪後の快晴、すべてが光る。子の声も。珍しく幸福感に包まれている。
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夜が重くてひしひしと布を裁つ
昭和五十七年、未発表句。裁たれた布が人体を包む衣服となることは、詠まれた時点では度外視されている。句の視線は、裁ち鋏が布を切り進む動きに焦点を合わせ、その様子が憂鬱な夜の気分を醸成させることになりゆきを任せている。発表句との関連は思い浮かばない。
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晩節の日のやわらかさ金網に
昭和五十七年、未発表句。日の光が金網に当たりモアレ模様を作っているのだろう。その「やわらかさ」に自身の老いを感じ取っている。紀音夫の句の難点として、「トリビアリズム」がよく取りざたされるが、こういう句を見ていると難点だけではないように思えてくる。
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2012-08-12
林田紀音夫全句集拾読 226 野口裕
Posted by wh at 0:05
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