【週俳7月の俳句を読む】
弦あれば舐めるしやぶる さあ眠れ
堀田季何
リーバイス畳み売らるる暑さかな 栗山 心
夏座布団二枚重ぬるマチネかな
一句目、ジーンズの厚い生地は夏に向かない。暑苦しい。しかも、畳まれていたら尚更だ。二句目、夏座布団は劇場に備え付けのものであろうか、それとも持参か。夏座布団は薄いので、臀部が厚くない男性なら長時間の観劇に耐えられるよう二枚重ねるのはわかる。
手の甲にメモある他は素つ裸 小池康生
台風のゆくへ耳掻みあたらぬ
一句目、道理からすれば、手の甲にメモが書いてあろうが無かろうが、素っ裸なら素っ裸のはず。だが、「他は」とあるところ、作者はメモが書かれている手の甲を着衣のように感じたのだ。二句目、台風ゆえ無聊なのであろう。
ひぐまのこ梢を愛す愛しあふ 生駒大祐
カーテンの波打ちぎはへ春の雪
しらたまはことばとなれるときまろし
涼しさや遠心分離機の微動
密談や鉄砲百合の花粉の黄
嫁が君大型計算機室より
一句目、「愛しあふ」とまで言ったのが手柄。二句目、普通、雪が降っていたら、カーテンが濡れないように窓を閉めないか、と思ったが、このセンチメンタリズムが作者の長所。三句目、確かに「しらたま」と云う音を口に出したり、平仮名で書いたりした時に白玉の丸さを感じる。四句目、六句目、理系研究室の味気ない機械をうまく俳句にしている。評者は遠心分離機が嫌いで、いくら冷房の入っている研究室でも「薄暑し」と感じてしまうのだが、作者は遠心分離機の微動にフェチ的な快楽を感じていて「涼しさ」としている。無論、元日にも大型計算機室に来ているほど研究熱心なのだ。五句目、「密談」の取合が成功している気がする。
はつなつのとびらはづしてもようがえ 御中虫
しちがつなのかかべはどうしてあるのかな
ゆかいたつきぬけてんじょうぶちぬきひまわりどっかん
もようがえおえしをとこをおりたたむ
一句目、二句目は王道の有季定型。どちらも季語が効いている。扉は夏と相性が良いらしく、ハインラインのSF小説や松田聖子の歌謡曲の題名からもわかる。勿論、フロイト的な読みも可能だし、今回の連作ではそう読みたい。二句目、旧暦七月七日の星祭は、懸想のニュアンスを含んでいるため壁が暗示的になっている。四句目に出てくる男と関連していそうだ。そして、模様替えをこのような文脈で読んでいくと、三句目も多分にエロチックに感じられる。二句目の壁どころか床板天井全てが……石原慎太郎の文壇デビュー小説における障子シーンを思い起させる。
第271号
■栗山 心 下北澤驛前食品市場 10句 ≫読む
第272号
■生駒大祐 水を飲む 100句(西原天気撰) ≫読む
第274号
■小池康生 光(かげ) 10句 ≫読む
第275号
■御中虫 もようがえ 10句 ≫読む
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2012-08-12
【週俳7月の俳句を読む】弦あれば舐めるしやぶる さあ眠れ 堀田季何
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