【週俳8月の俳句を読む】
いい句というより気になる句
髙勢祥子
向日葵を蟻降りてくる怒つてゐる 石原明
この人怒っているなあと思いながら目は蟻を追ってしまっているということなのか、それとも蟻が怒っていると感じているのか、どうなのだろう。やはり後者だろうか。
向日葵の茎は長いから、それを蟻が伝うのにもそれなりに時間がかかるのだろう。一瞬ではなく、そのしばらくの時間をかけて“怒つてゐる”のだと判別している感じ。それが、こちらにも伝わって説得されるのだ。
老人がクロスワードを解いて夏 松本てふこ
そんなこともあるでしょうと思うのに、何だか変な感じがするのは、作者は老人はクロスワードを解くことなんかないと思いこんでいるのかも…と感じるから。そこに引っかかると、これは普通の景ではなかったのかしらと不安になってくる。ふつうと普通でないとの境目がよく分からなくなる。
船頭はバイクで帰り雲の峰 松本てふこ
今までは船頭の顔だったのに仕事が終わったとたん、ふつうの人に。ちょっとしたがっかりと、それもかえって楽しくて、明るい旅の句。
明易や岳父の訃報実父より 前北かおる
明易の星山ぎはに燃え立ちぬ 同
フィクションでも構わないと思っているけれど、この句はそういった事実がないと書けない句だろうと、素直に胸をうたれた。二句目、星は、まして明易の星は薄々としていそうなのに、それが燃え立つと感じてしまうこと。思いの強さを感じた。
いやむしろ滝は過程が美的じゃん 福田若之
“いやむしろ”という目を惹く入り方で、おっと思って解釈しようとすると、するする捉え所がない。滝の過程と言われて、ならば始まりは、終わりはと考えて行くのだけれど、結局、区切れるものではないのだから、過程なんかないのだという所に。そうか、この句は何も言っていなくて、その何も言っていないことが“さよなら、二十世紀”というタイトルに戻っていくのかと思った。
■谷口摩耶 蜥蜴 10句 ≫読む
■福田若之 さよなら、二十世紀。さよなら。 30句
≫読む ≫テキスト版(+2句)
■前北かおる 深悼 津垣武男 10句 ≫読む
■村越 敦 いきなりに 10句 ≫読む
■押野 裕 爽やかに 10句 ≫読む
■松本てふこ 帰社セズ 25句 ≫読む
■石原 明 人類忌 10句 ≫読む
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2012-09-09
【週俳8月の俳句を読む】いい句というより気になる句 髙勢祥子
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