浸透
津川絵理子第二句集『はじまりの樹』の一句
西原天気
望の夜の人にてのひら魚に鰭 津川絵理子
「てのひら」と「鰭」の併置は、言ってしまえば形状の相似が発端なのだが、その併置が、一定のイメージや感触、豊かなニュアンスを的確に呼び起こす。
てのひらに、鰭のようにしなやかでやわらかな動きが備わり、鰭に、てのひらのような意思や愛おしさが備わる。てのひらと鰭とが、ある瞬間に互いに入れ替わることを思えば、さらに「人」と「魚」もまた入れ替わる可能性が持ち上がる。
これは強烈な愉悦です。2つの個体、2つの形あるもの、2つのジャンルの相互浸透的な互換(って格好つけた言い方しちゃた)というのは、文字どおりトロけるような快楽なのです。
で、それを包むのが月光。そこは空気のある陸なのか、あるいは水の中なのか。これもまた相互に浸透して、どちらとも言えない。こう考えると、「望の夜」という季語がいかに効果的に作用しているかがわかろうというものです。
集中より、気ままに何句か。
亀ときに夏の落葉の音を曳き 同
七夕竹虫のたまごを付けて来し 同
ストーブの遠く法要すすみけり 同
鷹化して鳩となりけり祖母にひげ 同
座布団を足して寝ころぶ夜の秋 同
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2012-09-16
浸透 津川絵理子『はじまりの樹』の一句 西原天気
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