【週俳10月の俳句を読む】
言葉も季語もやっかいですね
小池正博
汗すぐに風に冷えたる子規忌かな 草深昌子
こひびとの数式光るあかるさ忌 忌日くん
季語に忌日を用いた俳句は成功するのが難しいという固定観念をもっている。忌日は喚起力が強いからどうしてもそのイメージに引きずられてしまう。それに抵抗してまったく無関係なことを取り合わせると、一句が分裂してしまう。やっかいなものだと門外漢には思われる。掲出句、「子規忌」は普通の忌日の配し方。「あかるさ忌」はそんなのずるいよと言いたくなる忌日の使い方。どちらもごくろうさまでした。
月光の入り来るらし耳の穴 飯島士朗
憎しみのほのかに香る菊枕 同
耳の穴に予想外のものが入ってくる。それが月光だという。でも、月光くらいなら安全無事である。川柳作品では、耳の穴に他人の視線が入ってくることがある。隣に座っている人が、私の耳の穴を覗いているのだ。月光には悪意はないが、他者の視線には悪意がある。無防備にしていられない。
「憎しみ」+「菊枕」なら、これは杉田久女でしょう。「菊枕」というようなものに私は生活実感をもてないから、文学イメージで充填するしかないです。
秋雲や愉快な人といふ評価 佐藤りえ
「愉快な人」と言われると本当は「愉快でない人」なのだなと思ってしまう。冗談ばかり言っているひとが内面に深い孤独をかかえているなんてよくある話だ。それとも、この人は本当に「愉快な人」なのかな。アイロニーだと思って読むとそうではなかったりするから、言葉ってやっかいですね。
空蝉の百一個目をひきだしに 西原天気
抽斗に紙魚の寝息といふものも 同
夏の虫は季語の数が多いから、素材の宝庫ですね。ここでは「ひきだし」プラス「虫」の二句を並べてみた。
空蝉の百一個目だという。では残りの百個はどこにいったのだろう。そんなことを考えるのは野暮なのかな。紙魚にも寝息があるんだとしたら、書斎も愉快な世界に変わるだろう。
蟋蟀が東海道中膝栗毛 手銭 誠
この「蟋蟀」の句は笑えますね。気に入ってます。
第285号 2012年10月7日
■忌日くん をととひの人体 10句 ≫読む
第286号 2012年10月14日
■佐藤りえ 愉快な人 10句 ≫読む
■手銭 誠 晩秋の机 10句 ≫読む
第287号 2012年10月21日
■草深昌子 露の間 10句 ≫読む
第288号 2012年10月28日
■飯島士朗 耳の穴 10句 ≫読む
第284号 2012年9月30日
■西原天気 俳風昆虫記〔夏の思ひ出篇〕 99句 ≫読む
2012-11-11
【週俳10月の俳句を読む】小池正博
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