【週俳10月の俳句を読む】
感覚
平井岳人
汗すぐに風に冷えたる子規忌かな 草深昌子
根津や松山といった子規ゆかりの地を歩いているのだろうか、立ち止まった時に風を捉えた感覚がよく出ている。この句だけで鑑賞すると野球の景としても読めそうである。守備のイニングが終わり、帽子を取ってベンチで打席を待っていると気がつけば冷えを感じているものである。「すぐに」という語がこの季節ならではの熱から冷えへの移り変わりを言い止めて的確。爽やかな句ながら、すーっとした感覚がなにやら死を思わせてくれるところも魅力的なのだろう。
鵙晴や何はともあれ橋渡る 同
道に迷ってしまったが、とりあえず目的地が川向こうという事はわかっているのだろうか。キィーキィーと鳴きわたる鵙に少し苛立ちを感じているようだ。鵙の鳴声と青空のほかは何もない場所に思える。道を尋ねることのできる人もいない。鵙晴の引き締まった感覚と「何はともあれ」というだらっとした作者の思考・行動の対比が面白い。「鵙晴」「ともあれ」と続くリズムの良さも好きである。
朝寒や無頼の性の草を踏み 飯島士朗
職場に向かうためにちょうど家を出た時に寒さを感じ、雑然と生えている草々を踏んだというだけのことだが、「無頼の性」が秋深まるころのひょろひょろと徒長し、黄ばんだ草の様子を言い得ている。家の温かさ、身を寄せるもののある安堵感がある朝の寒さ、草の無頼な様に作者をはっとさせたのだろう。
銀漢やわれら声音を貧しうす 同
二年ほど前に登ったある山頂の小屋からの星空を思い浮かべた。夕方からひと眠りして、外に出るとはっきりと天の川が流れ、まさに満天の星空であった。同じように幾人か外に出て眺めていたが、誰も大きな声でしゃべりはしない。言葉にすると陳腐であるがその雄大さに誰もが自分自身の小ささを感じていたのだと思う。この句、貧しいという言葉に清貧に通じる美しさを感じる。ひんやりとした闇の中、銀漢の美しさを言い合うにはひそやかな声で事足りるのである。
いずれも秋の冷えや静けさを何かしらの感覚で捉えた句に惹かれた。
第285号 2012年10月7日
■忌日くん をととひの人体 10句 ≫読む
第286号 2012年10月14日
■佐藤りえ 愉快な人 10句 ≫読む
■手銭 誠 晩秋の机 10句 ≫読む
第287号 2012年10月21日
■草深昌子 露の間 10句 ≫読む
第288号 2012年10月28日
■飯島士朗 耳の穴 10句 ≫読む
第284号 2012年9月30日
■西原天気 俳風昆虫記〔夏の思ひ出篇〕 99句 ≫読む
2012-11-18
【週俳10月の俳句を読む】平井岳人
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