2012落選展
11 中塚健太 風の渚
よき友の来るごと五月来りけり
路線図の色を辿れば虹立てり
木漏れ日のダイヤの如し夏は来ぬ
新樹光我をつつめば我一樹
キューピーの旋毛のかたちトマトにも
幸願ふこころの隅に飼ふ金魚
ペーロンの銅鑼青春を打ち鳴らす
香水の一滴で足る誘惑は
月見草鉢植といふ小さき星
深窓の冷房われを虜にす
どうやつて帰りきたやら昼寝覚
緑蔭の風に心を撫でらるる
踊り場に残る背や大西日
稲妻やベッドに長き髪ひとすぢ
君逝きて奔流となる天の川
コスモスの風の渚に群生す
砂の眼に微塵となれり秋の蝶
人生が嫌ひで好きで鰯雲
猫じやらし猫がかまつてくれにけり
長き夜と鉄路いづこより明くるや
なみだつぶなむあみだぶつあきのくれ
世渡りに芒原てふ行き止まり
男とは極楽とんぼ原始より
Bar銀河秋はさやかに深まりぬ
月光の満ちて密かな鰓呼吸
セーターのやはらかき身を抱き止むる
縄跳や入る子出る子見知らぬ子
初夢を蒸留したる美酒ならむ
鏡よ鏡なぜ福笑など映す
寒の入辞典に文字の重さあり
煎餅のなぜか瓦を模して雪
布団てふ羊水に身を沈めけり
寒禽の裂かるる声か幻聴か
細胞の天より降り来雪うさぎ
胎にゐて止まぬ吹雪を聴いてをり
白鳥に恋せし白物家電かな
魚獲つて木彫りの熊となる誉
風花の音を天使の羽音とも
恋猫やお前が言葉話せたら
黒板の日付の消され卒業す
淡雪の憂ひの底に届かざる
駅は春伝言板も詩のごとく
恋をしようか鶯けふも鳴いてゐる
春愁の鼻まで浸かる湯舟かな
風船の己(し)が影からも放たるる
ぺんぺん草春の真ん中この辺か
つばくらめ空に縦横斜めあり
気球より春の大地を抱きしめる
滔々と河童ながるる春の川
疎ましき四月に垂らす除光液
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2012-11-04
2012落選展 11 中塚健太 風の渚 テキスト版
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よき友の来るごと五月来りけり 中塚健太
なみだつぶなむあみだぶつあきのくれ 中塚健太
どうやつて帰りきたやら昼寝覚 中塚健太
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