2012落選展
12 谷口鳥子 夏星の配線
八月のジムガガくちづさんで蹴る
汗の連打得体の知れぬ神を負い
グローブの紐引く室温四十度
西日中鈍色パーカー炎吐く
空腹の蟹の目のあり右アッパー
ボクサーの赤の背傾ぐ夏夕
サンドバックの奥に窓その奥に月
虫出しの雷パンチングは一定に
花冷えや少しきつめにバンテージ
肘膝つく減量ボクサー春日向
はつ夏の膝傷のにおい嗅ぐ外科医
山百合と油を踏んで工場へ
H鋼切断のあと塩胡瓜
革軍手灼けるレンチに変色し
十四階廊下で目覚むカナブンと
作業着の手首に鉄粉まじる汗
夏の風邪毛深き腿を枕にする
クレソン噛み潰し記憶の夏に入る
ポピーの鉢かかえホームは事故処理中
秋日射す仁王の臍はγとπ
流星待つ乾くカラーコンタクト
古酒(クース)の夜はじめのメールだけ消して
木野子より抽出のエキスたたきこむ
秋暁の皮膚下り来し舌の位置
ウェブ株価見る鹿ジャーキーしゃぶりつつ
パチスロの点滅のテンポ冬の恋
絨毯にボジョーレの立つ夜明け方
先端の見えぬホームを黒ブーツ
ちぎれ栄螺ほじくり引き出すまで見つむ
雪しまくビル消え座標失って
新しき橋脚の立つ冬の月
春を待つ着信バイブ二度握る
梅の香やロッククライマーは樹のかたち
ネーブル剥くその指先が甘そうな
ゴーグルの焦点ずれてぼたん雪
秒針のリズムが狂う春の風邪
籍入れへん入れな入れへん雛納
青葉若葉焼酒(ソジュ)の空瓶ならぶ露地
春闇や頭ねじまげユダの恋
万緑や神告げの湯の無臭なる
短夜の祖母のベッドのブザー鳴る
髪六日洗えずと祖母待ちいたる
盆休み九九を唱える祖母といて
失禁を認めぬ眼朝焼け雲
甲虫のような腕膨れた足
拘束着「どないして脱ぐねん」夏の朝
葛桜食えたら明日しんでもええ
夕蝉と電子音のみ息を吐け
あん蜜や母の右手のあざ幾重
夏星の配線だけをつなぎ去る
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2012-11-04
2012落選展 12 谷口鳥子 夏星の配線 テキスト版
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作業着の手首に鉄粉まじる汗 谷口鳥子
はつ夏の膝傷のにおい嗅ぐ外科医 谷口鳥子
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