2012-11-04

2012落選展 21 川奈正和 掌上 テキスト版

2012落選展 
21 川奈正和 掌上 

白魚を食み暮らしたる魚に火を
流氷の上なる人に礼をなす
北窓を開きこの地に降りて来よ
遠山にとほき雨ふる沈丁花
謝肉祭にはあまりにも憂き仮面
あるほどの種蒔いてきし敵地かな
恋のあといちにち風の中の猫
酒豪あり荒野生まれの花衣
酒池肉林われ空杯に花受けて
絶滅種さながらに立て花吹雪
劇いまだ劇中劇や花は葉に
来しかたに紙の雪ふる昭和の日
牙ひとつ朔太郎忌の掌上に
好日やひとり麦笛鳴らずとも
父の日の父は主峰に真向かへり
おみやげは華氏温度計夏来たる
一里きて蛇踏むわれは一里塚
万緑のなかに一樹を植ゑてきし
人恋うて人喰蟻を抓みしか
青嵐衝いてきたりし君を嗅ぐ
しんがりをしかと歩める熱砂かな
砂の城遺してはるかなる泳者
潮騒をまねる道具を夏の果
少年の百戦錬磨花ユッカ
生身魂お菓子の家に生まれしと
血と汗と涙こぼるる露の秋
神殿に入る行列や天高し
口中の水澄みわたれ黙秘権
秒読みの声うつくしき秋の暮
胡桃割る廃仏毀釈とも違ふ
逢ひにゆく紅天狗茸ふところに
座布団を塔の如くにして待たれ
冬薔薇や遣欧少年のその後
初景色われさきに木を登りきて
恵方より来る一球をわが打法
雨ふれといへば雪ふる淑気かな
松のこと松にならへと手毬唄
満身に愛とかかれて初鏡
若菜摘み一夫多妻の如くにて
はてしなき雨の始まる七日かな
狼の毛もて書くべし立志伝
凱旋の靴音を待つ日向ぼこ
背番号見せあふことも愛の日に
眠らむか靴に仔猫を眠らせて
手旗から手旗へ伝へきたる東風
草摘みて天に到れり羽衣伝
亀鳴くや遅れに遅れきしわれに
ことごとく憂国の士や磯遊び
鳥雲にわれら倭国に入りたけれ
薔薇色の世をかへりみる薔薇の門

2 comments:

ハードエッジ さんのコメント...

注目句
あるほどの種蒔いてきし敵地かな  川奈正和
眠らむか靴に仔猫を眠らせて    川奈正和
来しかたに紙の雪ふる昭和の日   川奈正和

minoru さんのコメント...

気になる一句
「潮騒をまねる道具を夏の果」
これって効果音を作るための「道具」なのだろうか、と思う。竹で編んだ箱の中に小石か小豆みたいなものを入れて、揺すると波に似た音が出るというもの。ずいぶんアナログなものだけど、夏-海の連想を人工的な海の音という形で、こんな風に外しているのかと思い、面白く感じました。