2012-12-09

【週俳11月の俳句を読む】五十嵐義知

【週俳11月の俳句を読む】
いつものように

五十嵐義知 


芒より歩み出て立ち塞がりぬ  森賀まり

振り返りつつ残菊を剪りくれし

晩秋から初冬にかけての静かな景色である。「芒より歩み出て立ち塞がりぬ」の芒を分けて歩く姿や「振り返りつつ残菊を剪りくれし」の残菊を剪る仕種は普段の何気ない一場面であるが、普遍性のある光景だからこそ、私たちに気付きとそれらにまつわる多くのことを想起させる。

今引かれたる線上の秋茜


掲出句の線は真っ直ぐに引かれた白線であろうか。横断歩道の白い塗料や競技場の石灰、路上の白墨などさまざまな白線が思い浮かぶが、そこに秋茜がとまった。蜻蛉が細い枝の先や物干し竿に止まるのはよく見る光景である。線の上に蜻蛉が止まっている様子をあらためて考えてみると、「線上に」という表現が、まるで秋茜が滑走路の旅客機のようにも思えてくる。 


 
枯れ葉転がる音の快晴  
矢野錆助

地面に葉の角を打ちつけながら転がる枯れ葉。こちらも普段の初冬の景色である。東北でも当地のように日本海側であると、なかなか乾燥した気候とはならないのだが、それでも雪が降り積もる前のわずかな時期には、掲出句のように枯れ葉の転がる大きな音を聞くことがある。
「音の快晴」としたことで、乾燥した枯れ葉の乾いた音のする地表から青く清澄な空へと一気に視点が移動するのである。



第290号2012年11月11日
森賀まり 左手 10句  ≫読む

第291号2012年11月18日
中嶋いづる 秋熟す 10句  ≫読む 
谷 雅子 雨の須賀川 10句  ≫読む 
石原ユキオ 狙撃 10句  ≫読む

第292号2012年11月25日
矢野錆助 緑青日乗 10句 ≫読む
 

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